「ぼくは割と、答えが出るまで細かく考えちゃうたちなので、身内が不倫したらなんで嫌なんだろう?って心のうちにメスを入れていくんですけど、切っても切っても核が見えてこない。真理が意外と遠い感じで、それがいいことか悪いことかは別に、この遠い感じはなんだか面白いなと思いました」
答えが見つかるまでいろんな角度から考え続ける。今回、家族について書くと決まって、恩師との会話がよみがえってきた。
「記憶力は結構いいほうで、作家として助けられてるなと思います。『ガイアの夜明け』(テレビ東京系)が好きでよく見るんですけど、どの回にどういうエピソードが出てきた、みたいなことはだいたい覚えてますね。何か書こうと思ったときに、そういえば、あの問題といま向き合うときなんじゃないか、ってひょっと拾いあげてくる」
ちなみに、終盤の結婚式の場面での友人が口にするせりふも、浅倉さん自身が実際に言われたことがあるものだそうだ。
綿密にプロットをつくってから作品を書き始める。書きたい場面をポストイットに書いて、ホワイトボードに貼りだしていく。
「左上が物語のスタート、右下が終了で、ポストイットに場面を書き出して貼っていきます。途中で謎の車に追いかけられたら面白いなと思いついたら、だいたいこの辺がいいかなと貼ってみる。全体を俯瞰できるのがこのやり方のいいところで、ノートだと小さいからホワイトボードを買いました。足したり引いたり入れ替えたりを十全にやったうえで、次はExcelにシーンを全部書き出し、書き終わったセルに色をつけます。そういう執筆のメソッドみたいなのを考えるのも好きですね」
今回の作品も、出世作となった『六人の嘘つきな大学生』も、一人の人間を理解するのは簡単なことではないという浅倉さんの人間観がうかがえる。
「中学生、高校生ぐらいのときに、噂話で勝手にこうだと決めつけられた経験が何度かあったせいかもしれません。小説は、“どこを切り取ってどう見てもらうか”という世界だから、そういうのもうまく利用しないといけないんですけど、短絡的に決めつけてはいけない、という気持ちは常に心のどこかにありますね」
【プロフィール】
浅倉秋成(あさくら・あきなり)/1989年生まれ。2012年に『ノワール・レヴナント』で講談社BOX新人賞Powersを受賞しデビュー。2019年に刊行した『教室が、ひとりになるまで』が本格ミステリ大賞〈小説部門〉候補、日本推理作家協会賞〈長編および連作短編集部門〉候補となる。2021年に刊行した『六人の嘘つきな大学生』は山田風太郎賞候補、「2022年本屋大賞」ノミネート、吉川英治文学新人賞候補となる。2022年に刊行した『俺ではない炎上』は山田風太郎賞候補、山本周五郎賞候補となる。「ジャンプSQ.」で連載の『ショーハショーテン!』(漫画・小畑健)の原作も担当している。
取材・構成/佐久間文子
※女性セブン2024年4月25日号