あのルートは実際に運転してみたんですか?
「ありがたいことに、いまはGoogle Mapで計算できますので。ゴールを本州の最北端に近い青森に置いて、朝気づいて1日で行けるか行けないか、ちょうどいいデッドヒートになるのが山梨だろう、という風に場所を決めていきました」
車の運転は大好きだそうで、旅好きなのかと思えば、ものすごい出不精だというから面白い。
「月曜日に外出したら次は翌週の月曜日みたいな感じです。でも一昨年、佐賀県嬉野市の和多屋別荘という温泉宿が企画する『三服文学賞』のプロモーションの一環でお招きいただいて、初めて佐賀県に行ったんです。関東を出たのが10年ぶりぐらいで高揚感がすごくて。漫画原作(『ショーハショーテン!』)の取材で大阪にも行き、『日本、意外にちっちゃいぞ』とようやく気づいて、前よりは移動できるようになりました」
小説を書くにあたり、「家族とは何か」を知ることから始めた。
「『家族で』というボールを編集者から受け取ったときに、まず『家族』を知らねばなるまいと思いました。歴史や文化人類学の本を読み、編集者や周りの人に『自分の家族はこうだった』という話をざっくばらんに話してもらって。みんなちょっと変、だけどおおむね平凡で、という感じの話をたくさん聞いて、『家族とはこれこれである』とはたぶん言えないなということに気づきました。家族仲良く、ほっこりするお話だと、『そういう家族もあるでしょうよ』ということにしかならないのかな、って。もっと根幹の、概念に切り込む話にしたほうが普遍性が出るんじゃないかと思ったんです」
大学のゼミの先生が「なんで身内だと嫌なんだろうね」と
父の浮気も物語の核のひとつになっている。浮気現場を目撃された父は家族の中で居場所を失う。失って当然だろうで終わらせず、浅倉さんはなぜ当然なのかも考えてみる。
「5年ぐらい前に大学のときのゼミの先生と食事したんです。ちょうど芸能人の不倫報道が過熱していて、ぼくはあまり気にならないほうなので、『みんな不倫の話好きですよね。ぼくも身内がやってたらどうかと思いますけど』ってボソッと言ったら、先生が『なんで身内だと嫌なんだろうね』と言ったんです」
そこで終わったはずの会話が、喉に刺さった小骨のようにいつまでも引っかかっていた。