昨年の大谷翔平を凌駕するストレートの回転数
ストレートで回転数が多いと、ボールに揚力がかかり、伸びのあるボールになるとされる。昨シーズンのMLB平均は毎分2234回転。今永は2400回転台を記録しており、昨年のエンゼルスの大谷翔平の平均2260回転より多い。
「スピードも大切な要素だが、バッターが打ちやすいのはすべての球種の回転数が平均的なピッチャー。バッターの予測通りのボールが来るからです。それに対し、今永投手はストレートの回転数と変化球の回転数の差が大きい。そのためストレートは球速より速く感じ、より変化球が意識されることになる」(内川氏)
デビュー3試合目で初失点したが、登板5試合のうち3試合が無四球。27イニング2/3を投げて与四球3はMLB1位にランクされている。
ロッテ、中日、巨人でプレーし、メジャー挑戦経験もある左腕投手の前田幸長氏はこう分析する。
「うしろがコンパクトなフォームのため、バッターにはリリースポイントが見えづらくタイミングが取りにくい。それでいて回転数が多いため、ボールが手元で浮き上がるようになって空振りを誘う。日本ではファールで粘ったり、コツコツ当ててくるが、メジャーのバッターは振り回すために奪三振数につながっている。日本以上にメジャーが合っているタイプではないか」
過去、メジャーに挑戦した日本人左腕は9人。最多勝ち星は石井一久の39勝で、菊池雄星の34勝、岡島秀樹の17勝と続く。「自分が変化しないと進化できない」「船出とたとえるなら、まだ船からロープを外しただけ」など、数々の名言でDeNA時代から「投げる哲学者」と呼ばれた今永に、記録更新への期待感は十分すぎるほどある。
取材・文/鵜飼克郎
※週刊ポスト2024年5月17・24日号