大都市圏を襲う「都市型津波」

大都市圏を襲う「都市型津波」

「海なし県」にも大きな被害

 今後、発生が懸念されているのが、「南海トラフ地震」だ。気象庁によると、マグニチュード8〜9クラスの大地震が、この先30年以内に発生する確率は70〜80%で、いつ起きても不思議ではない状態が続いている。

 この地震が起きれば、静岡県から宮崎県にかけての一部で震度7に見舞われ、周辺の広い地域が震度6強〜6弱の揺れに襲われる。その後間を置かずして、関東地方から九州地方にかけての太平洋沿岸の広い地域に、10mを超える大津波が迫るという。

「南海トラフ地震では、“津波は海側からくる”という思い込みを変えなければなりません。

 陸地に上がった津波は、建物の間を縫うように広がりながら進みます。“さいの目”状の整然とした街並みに整備されている都市部の方が、水が通りやすく、都市型津波の被害が大きくなると考えられます」(有川さん・以下同)

 特に大きな被害が予想されるのが、東京では墨田区や江東区、江戸川区などの東側のエリア。足立区と葛飾区を加えた江東5区は、荒川や江戸川などの大きな河川の最下流に位置し、陸の7割が満ち潮の海面よりも低い「海抜ゼロメートル地帯」になっている。

 一方、南海トラフ地震の震源域に近い大阪では、大阪湾を中心に兵庫県の甲子園球場あたりまでが危険度が高いと想定される。2013年に大阪府が公表した被害想定では、大阪の大ターミナル駅である梅田駅周辺でも、最大で2mも浸水するおそれがあるとしている。

 名古屋を中心とした中京圏も、名古屋市を含む濃尾平野に広大な海抜ゼロメートル地帯を抱えている。そこに住む人口は約90万人。津波が襲えば大きな被害は避けられない。

 津波が予想もしない方向から迫ってくる──。「都市型津波」の大混乱をさらに強めるのが、津波が川を遡る現象だ。

「川が多い東京や大阪では、南海トラフ地震によって発生した津波が川を遡上し、上流部であふれ出ることも考えられます」

 東日本大震災の際、宮城県多賀城市は、海側である仙台港方向からだけでなく、砂押川を遡上した津波、砂押川から貞山運河を遡上した津波と、大きく分けて3つの方向から津波に襲われたことがわかっている。これらの津波は幹線道路である仙台塩釜線や国道45号などの道路を流れて内陸部へ入り込んでいった。特に被害の大きかった市街中心部は、海側からと、そうではない“予想外の方向”の2方向から津波に襲われて被害が出たという。

 また、同様に東日本大震災では、宮城県と岩手県を流れる北上川でも津波が遡上した。津波が河口から49kmも遡り、その被害は河口から12km付近までと広範囲に及んだ。

 未曽有の大津波が予想される南海トラフ地震では、「海なし県」の都市でも油断はできない。関東地方では津波が利根川を遡上したとすれば、群馬県付近にまで到達し、埼玉県の春日部市や幸手市周辺などでも大きな被害が出るとのシミュレーションもある。

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