出典/厚生労働省「平成29年社会医療診療行為別統計」

出典/厚生労働省「平成29年社会医療診療行為別統計」

優先順位をどうつけるか

 間違った減薬で体を蝕まれないためにまず知っておくべきは、守るべき「ステップ」があるということ。松田医院和漢堂院長で、日本初の「薬やめる科」を開設した松田史彦さんが言う。

「多くの患者は医師の処方する薬を何の疑いもなく服用していますが、それではいつまで経っても薬は減りません。まずは出された薬が『どんな目的』で『どの症状を抑えるために』処方されているのかを自分で把握し、どの薬から減らしていくべきか、優先順位をつけることから行うべきです」

 中野病院の薬剤師・青島周一さんは、最初に減らすべき薬として「リスクが利益を上回る薬」を挙げる。

「のむことによって目的とする症状は軽減されるものの、明らかな副作用が出て、体に負担がかかり日常生活に支障が出たり、それを抑えるために別の薬が必要になるなど、服用に伴う利益よりも弊害の方が大きくなる薬は中止すべきです。

 代表的なのは、作用の強い睡眠薬。さまざまな種類がありますが、作用時間が6時間以上の薬は日中も眠気がとれなくなり、ふらつきやそれに伴う骨折、自動車を運転する習慣のある人は交通事故を起こすリスクもある。活動量の低下も懸念されます。そうした兆候が見えたら減薬を検討した方がいいでしょう」

 インスリンやスルホニル尿素薬(SU薬)のような血糖値を下げる薬も、弊害がメリットを上回る可能性があると青島さんは続ける。

「特に薬の効きやすい高齢者は、服用後に起きる急な低血糖による転倒のリスクや慢性的な倦怠感が生じる可能性が懸念されます。そもそも薬によって血糖値が下がったとしても、糖尿病の合併症を予防できるという明確なエビデンスはない。のむことによって体に悪い影響が生じているのであれば、無理して血糖値を下げなくてもいい」

 手軽に購入できる市販薬の中にも、真っ先に減らすことを検討すべき薬が存在する。愛知医科大学地域総合診療医学寄附講座教授の宮田靖志さんが言う。

「ロキソプロフェンなどの『NSAIDs』を主成分とする解熱鎮痛薬は、胃腸障害や腎障害の副作用があります。慢性的な頭痛など、日常的に生じる痛みを緩和するために長く服用している人は、別の成分の鎮痛薬に変えるなどしてなるべく減らした方がいい」

 NSAIDsを主成分とする鎮痛薬は依存性が高いうえ、継続的に服用することで薬が原因の「薬物乱用頭痛」を引き起こすなど、強い副作用が明らかになっている。自分で購入できる薬だからこそ、主体性を持って減らしていきたい。

 加えて留意すべきは、現時点で明らかな副作用がなかったとしても、長期的にのみ続けることで弊害を生む薬もあるということ。青島さんが挙げるのは、逆流性食道炎の治療などに使われる胃薬「プロトンポンプ阻害薬(PPI)」だ。

「胸やけや胃潰瘍の症状を改善する強力な効果を持つ一方、長期服用によって認知症や、肺炎をはじめとした感染症のリスクが高くなると報告されています。症状が改善した段階で、中止することを検討すべき薬の代表格です」

 北品川藤クリニック院長の石原藤樹さんもこう言い添える。

「プロトンポンプ阻害薬は胃酸の分泌を抑えることで症状を改善する作用を持っています。しかし胃酸が減りすぎると胃の殺菌作用が弱まったり栄養の吸収率が低下する弊害がある。その結果、カルシウムの吸収率が下がり、骨粗しょう症のリスクが上がります」

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