コストが上がり、便益は伸びない
事業費の増え方がさらに激しいのは秋田県の「一般国道7号 二ツ井今泉道路」(6位)。日本海側の能代から青森県境の小坂に向かう国道と並行する無料の高速道路。工事費は当初の3.6倍の543億円。これが影響してB/Cは最大だった1.5から0.6まで下がっている。
2018年、2021年に東北地方整備局が公表した資料によれば、トンネルの掘削開始後、想定外のヒ素やセレンなどの重金属の地層が判明し、対策が必要になった。前出・元国交次官の谷口氏が解説する。
「山脈が中央を貫き、可住エリアが狭い日本では後につくる道路ほどトンネルや橋梁などの構造物に頼らざるをえず、分母のC(コスト)が高くなる。しかもB(便益)に影響する経済成長は緩やかな一方、地方ほど人口減少も急で、通行量などが伸びる要素が乏しい」
首都圏でランキング上位にあがる道路もあった。
3位の「首都圏中央連絡自動車道=圏央道(横浜湘南道路)」では、事業費が元の2.6倍の5700億円にまで膨れ上がった。増額の要因を国交省に聞くと、「最も大きかったのは、シールド掘削によって発生する土砂を公共利用する必要が生じたため、土砂の改質や仮置きなどの設備の必要が生じたこと」(道路局企画課評価室)と説明する。
さらに、コスト増に加え、便益が増えないことも影響している。
「東名高速や中央高速、首都高など、網の目のように高速道路網が張り巡らされた首都圏では、“高速空白地帯”は存在しません。こうしたエリアに道路を整備したケースでは、既存のネットワークの渋滞を緩和するといった、補完的な作用の及ぼし方になる。便益を大幅に増やす効果は現われにくい面がある」(財務省主計局・公共事業担当者)
国交省が道路事業などにB/Cの指標を導入し始めたのは2002年、道路公団改革まっさかりの頃だ。
効率を無視した無駄な道路建設が行なわれているのではないか、腕力の強い政治家の地元に予算が優先的に配分されているのではないか──B/Cの指標はそんな疑いを払拭し、優先順位を客観的に整理するための、国交省の一つの解だった。