豪腕政治家の1人と目されるのは、二階俊博・元自民党幹事長だ。その二階氏が悲願としてきた“紀伊半島一周高速道路”の一部として、紀伊半島南部で建設が進む「一般国道42号 すさみ串本道路」もランキングに入っている(15位)。
710億円だったこの区間の事業費は、3度の増額で合計1160億円も膨らんだ。これがB/Cが1.2から0.6にまで落ち込んだ主因だ。
2020年に私が党幹事長室でインタビューした際、二階氏は「国土の均衡ある発展を実現することが政治の責任じゃないですか」と力説していた。
ただ、当時のインタビューからわずか4年だが、政府の試算では、「2050年には6割の地域で人口が30%以上減少し、約2割の地域で無居住化する」という推計すらある。
和歌山県では二階氏のお膝元の御坊市を含めた23市町も「消滅可能性自治体」としてその名があがっている。
長い時間をかけて道路をつくっても、できた時には利用者は車より鹿やイノシシのほうが多い、という笑えないミスマッチが起きるリスクは否定できない。このまま漫然と計画を実現していくことが、本当に国民にとって恩恵になるのだろうか。
見解を聞こうと改めて二階氏に取材を申し込んだが、事務所は「今回は取材対応を控えさせていただく」との返答だった。
(後編に続く)
【プロフィール】
広野真嗣(ひろの・しんじ)/ノンフィクション作家。神戸新聞記者、猪瀬直樹事務所スタッフを経て、フリーに。2017年、『消された信仰』(小学館文庫)で小学館ノンフィクション大賞受賞。近著に『奔流 コロナ「専門家」はなぜ消されたのか』(講談社)。
※週刊ポスト2024年8月16・23日号