フワちゃんはプロレスデビューなどマルチな活動をしていた(共同通信社)
本当はフワちゃんを叱りたいのに、叱れない。そんな変な空気が生まれた原因として、もう1つ、オトナ世代が若者に嫌われることが怖いのではないかと思うのです。今年、放送作家を引退した鈴木おさむさんは「仕事の辞め方」(幻冬舎)において、引退する理由の1つとして、自分が知らない間にソフト老害に陥っていて、若い人のやる気を奪っていたことに気付いたことを挙げています。加齢臭やソフト老害のように目に見えないものは、気にする人はとことん気にしてケアする一方、気にしない人はまったく意に介さないという傾向があるのではないでしょうか。もしそうなら、ソフト老害を気にする人ほど、若い人に圧をかけてはいけないという気持ちから、結果的に若い人の問題行動を野放しにしてしまうことにつながっていく気がするのです。
フワちゃんは2020年9月15日放送の「あちこちオードリー」(テレビ東京)において、無礼なイメージがついているからこそ、あえて礼儀を学んでいるそうで、「鈴木おさむなんて、チョロっと挨拶しただけで『フワちゃん、ちゃんとしてるよ』って。まんまと」と目論見が当たったことを明かしていましたが、フワちゃんは鈴木さんのような「怒らないオトナ、若者に嫌われたくないオトナ」を見分ける嗅覚があるのだと思います。
鈴木さんは、若い才能の芽をつみたくないと思っているようですが、フワちゃんのような人を野放しにすると、今度はいつも真面目な大多数の若者のモチベーションが下がってしまうことが考えられます。目上にきちんと敬語を使い、礼儀に気を付ける人は「そんなの当たり前だろ」としか言われないのに、フワちゃんのように「ときどき、ちゃんとやる」人がほめられていたら、バカバカしくもなるでしょう。また、「フワちゃんが許されるなら、私だって」とフワちゃんを真似たミニフワちゃんが出現する可能性もありますから、そうすると、周りの「怒れないオトナたち」がどんどん疲弊してしまう。やはり、言うべきことは言った方がお互いのためになるように思います。
怒る人も守る人もいない環境を自ら作ってしまった
フワちゃんは、芸能事務所に所属して下積みしながら、芸能人としてのお行儀を学んだという経験はなさそうです。うまくできなければ、注意されたり怒られたりすることもあるでしょうが、個人事務所で活動するフワちゃんにはそういう存在がいなかったと考えられます。上述した理由で、大御所もフワちゃんを怒らないので、フワちゃんにとって芸能界は、何をしても怒られない、生きやすい場所だったのかもしれません。
しかし、今回のようにコトを起こしてしまうと、フワちゃんを高く評価してくれた人も、芸能人のお友達も、誰もフワちゃんを守ってくれません。Google Japanのような取引先には、コンプライアンス遵守と炎上回避のため、CM動画が打ち切りになってしまいました。表面的には怒らないけれど、有事には非情。フワちゃんは今、オトナの世界の怖さをかみしめているのかもしれません。
◇仁科友里/フリーライター。著書に『間違いだらけの婚活にサヨナラ』(主婦と生活社)。