芸能

《真田広之がこだわった”オーセンティック”》エミー賞最多受賞『SHOGUN将軍』が修正する「フジヤマ・ゲイシャ」的な思い込み 心理士が指摘する「真実性の錯覚」

『SHOGUN将軍』でエミー賞を受賞したアンナ・サワイ(左)と真田広之(AFP=時事)

『SHOGUN将軍』でエミー賞を受賞したアンナ・サワイ(左)と真田広之(AFP=時事)

 9月16日、第76回エミー賞の授賞式が開催され、真田広之が主演とプロデューサーをつとめた米ドラマ『SHOGUN将軍』がドラマ・シリーズ部門の作品賞、主演男優賞、主演女優賞など最多18部門受賞。大きな話題となっている。臨床心理士の岡村美奈さんが、”正しい日本”を伝える時代劇だと評判の同ドラマについて分析する。

 * * *
 その発表を見た某情報番組のコメンテーターが「誤植ではないかと思った」と口走ってしまうほど、『SHOGUN将軍』(日本ではディズニープラスで配信)の米エミー賞最多18冠は歴史的快挙だったようだ。

世界中で高い評価を受けていると聞けば、観ないわけにはいかないだろう。エミー賞は米テレビ界のアカデミー賞と呼ばれる。日本語の時代劇が過去に作品賞、監督賞、主演男優賞に主演女優賞などを受賞したことはない。メディアはこの受賞をこぞって絶賛し、主演とプロデュースを担った真田広之さんの活躍とともに日本流時代劇が世界を席巻したと報じた。

 受賞した真田さんは「今回はオーセンティックにこだわりました」とコメント。日本語で時代劇を継承して支えてきた全ての人々に感謝の意を表し、「あなた方から受け継いだ情熱と夢は、海を渡り国境を越えました」と述べた。ここ数年欧米では”オーセンティック”という表現がよく使われる。本物志向、正統的な、忠実なという意味だ。真田さんの言葉には、ハリウッドで作られる日本の時代劇の描写を本物志向にするため、彼がいかに努力してきたか、闘ってきたかがにじみ出ていた。

 彼が闘ってきたのは、外国人が持つ日本に対する「フジヤマ・ゲイシャ」的な思い込み。フェイクや虚偽と違って悪意がないだけに、他人の思い込みを変えるのは難しい。今回も製作者側が自分たちの思い込みと本物が違うことに気がつかなければ、真田さんがプロデューサーに入ることも、彼が望むオーセンティックも無理だったのではないだろうか。

 サムライ、ニンジャなど海外で人気のコンテンツで本物志向の映像が増えていけば、各国の人々もいつのまにかそれが正しい、それが真実だと感じるようになる「真実性の錯覚」が生じる。真実性の錯覚とは、それが正しかろうが間違っていようが、繰り返し見聞きする情報を正しいと感じるようになることだ。これまで外国の作品では、着物の合わせが逆だったり、草履を履いたまま家にあがったり、大人しくて従順な女性が描かれ、脈絡なく富士山や五重塔がありえない場所で背景に差し挟まれたりするなどのおかしな日本であっても、そうした描写が繰り返されてきたことで、それを真実の日本の姿、日本文化だと思い込む外国人が多かったのだ。

関連キーワード

関連記事

トピックス

硬式野球部監督の退任が発表された広陵高校・中井哲之氏
【広陵野球部・暴力問題で被害者父が告白】中井監督の退任後も「学校から連絡なし」…ほとぼり冷めたら復帰する可能性も 学校側は「警察の捜査に誠実に対応中」と回答
NEWSポストセブン
隆盛する女性用ファンタジーマッサージの配信番組が企画されていたという(左はイメージ、右は東京秘密基地HPより)
グローバル動画配信サービスが「女性用ファンタジーマッサージ店」と進めていた「男性セラピストのオーディション番組」、出演した20代女性が語った“撮影現場”「有名女性タレントがマッサージを受け、男性の施術を評価して…」
NEWSポストセブン
『1億2千万人アンケート タミ様のお告げ』(TBS系)では関東特集が放送される(番組公式HPより)
《「もう“関東”に行ったのか…」の声も》バラエティの「関東特集」は番組打ち切りの“危険なサイン”? 「延命措置に過ぎない」とも言われる企画が作られる理由
NEWSポストセブン
海外SNSで大流行している“ニッキー・チャレンジ”(Instagramより)
【ピンヒールで危険な姿勢に…】海外SNSで大流行“ニッキー・チャレンジ”、生後2週間の赤ちゃんを巻き込んだインフルエンサーの動画に非難殺到
NEWSポストセブン
〈# まったく甘味のない10年〉〈# 送迎BBA〉加藤ローサの“ワンオペ育児”中もアップされ続けた元夫・松井大輔の“イケイケインスタ”
〈# まったく甘味のない10年〉〈# 送迎BBA〉加藤ローサの“ワンオペ育児”中もアップされ続けた元夫・松井大輔の“イケイケインスタ”
NEWSポストセブン
Benjamin パクチー(Xより)
「鎌倉でぷりぷりたんす」観光名所で胸部を露出するアイドルのSNSが物議…運営は「ファッションの認識」と説明、鎌倉市は「周囲へのご配慮をお願いいたします」
NEWSポストセブン
逮捕された谷本容疑者と、事件直前の無断欠勤の証拠メッセージ(左・共同通信)
「(首絞め前科の)言いワケも『そんなことしてない』って…」“神戸市つきまとい刺殺”谷本将志容疑者の“ナゾの虚言グセ”《11年間勤めた会社の社長が証言》
NEWSポストセブン
イギリス出身のインフルエンサーであるボニー・ブルー(本人のインスタグラムより)
“タダで行為できます”の海外インフルエンサー女性(26)が男性と「複数で絡み合って」…テレビ番組で過激シーン放送で物議《英・公共放送が制作》
NEWSポストセブン
ロス近郊アルカディアの豪
【FBIも捜査】乳幼児10人以上がみんな丸刈りにされ、スクワットを強制…子供22人が発見された「ロサンゼルスの豪邸」の“異様な実態”、代理出産利用し人身売買の疑いも
NEWSポストセブン
谷本容疑者の勤務先の社長(右・共同通信)
「面接で『(前科は)ありません』と……」「“虚偽の履歴書”だった」谷本将志容疑者の勤務先社長の怒り「夏季休暇後に連絡が取れなくなっていた」【神戸・24歳女性刺殺事件】
NEWSポストセブン
(写真/共同通信)
《神戸マンション刺殺》逮捕の“金髪メッシュ男”の危なすぎる正体、大手損害保険会社員・片山恵さん(24)の親族は「見当がまったくつかない」
NEWSポストセブン
野生のヒグマの恐怖を対峙したハンターが語った(左の写真はサンプルです)
「奴らは6発撃っても死なない」「猟犬もビクビクと震え上がった」クレームを入れる人が知らない“北海道のヒグマの恐ろしさ”《対峙したハンターが語る熊恐怖体験》
NEWSポストセブン