“現場任せ”の運営と慢性的な人手不足に悩まされていた施設
「働き始めたのは今年1月ころですが、昨年10月にオープンしてわずか3ヶ月ですでに10人以上の退職者がいたと先輩から聞きました。お給料はどちらかというと都内では結構いいほうで、お金が理由で辞めたわけではないと思います。
まず驚いたのが、圧倒的に職員が足りないこと。当時50〜60人ほど利用者さんがいたと記憶していますが、それに対して日勤者がひとりということもありました。施設は3階建てで、そのくらいの利用者数だと通常であれば少なくとも7〜8人の日勤者が必要なんですよ。もう全然手が回らなくて……利用者さんのオムツはみんな汚いままだし、1月はひと月お風呂に入れてあげることもできなかった」
慢性的に人手不足だった施設。施設の居室数は187床あり、オープン当初から混乱続きだったのだろう。Aさんは現場で働く身として、このように職場の状況を回想する。
「明らかに体制が整っていない状況でした。とにかく全てが“現場丸投げ”状態で、現場経験が豊富でマネジメントができるような人間も施設にはいない。私が入った時は原則、利用者40人に対して最低1人は配置しなければならないサ責(サービス提供責任者:訪問介護サービスを提供するうえでの責任者のこと) すらおらず、2月になってからようやく1人採用されました。当時、施設長の肩書きをもつ男性もいたのですが『現場は初めてなんだ』と話していてびっくりしましたよ」
Aさんは続ける。
「通常なら利用者さんへの投薬も、どの職員が誰にあげるかなど細かいルールづくりがあります。しかい、この施設ではそういったルールもなく、誤薬や飲ませ忘れもよく起こっていた。また『事故報告書』といって、介護中の事故などを上司に知らせるものがあったのですが、これも形式的でいい加減な運用だった。本来は事故の再発や隠ぺいを防ぐため、現場の職員が書いて上司の判子をもらい、戻ってきたものを保管しておくべき書類ですが、この施設では職員が事故の内容を記入したうえでファイリングするのみ でした。経営サイドの方が現場に来ることもまずなかったので、施設がどういう状況か知るよしもなかったでしょうね」