インタビューに応じてくれたモンテリーズィ枢機卿

インタビューに応じてくれたモンテリーズィ枢機卿

「いつか神が天で引き合わせてくれます」

 私は言った。

「バチカンで歌うまで、一部のプロテスタントとカトリック教会に深い確執があることも知りませんでした。自分が辛い経験をしたからこそ、あらゆる宗派が手を結んでほしいと真剣に望みます。ただ、難しいと感じます」

 言葉で「愛」を語るのは甘美だが、その実践は難しい。拉致問題が解決されるべきは勿論だが、戦争の終結が難しいように、対話の困難さがその解決を不可能にしている。

 私の瞳が迷いで曇るのを見て取ったのか、枢機卿は続けた。「この大聖堂に祀られる聖パウロも、様々に分かれたキリスト教の宗派が一つになるべきだと説きました。私たちは、何よりも互いに対し誠実であり、親切であることが大切なのです。過去に私たちは分かれて対立していましたが、今世界は少しずつ融和に近づいています。私たちは互いが兄弟のようにつながる世界を実現しなくては」

 枢機卿に私は再び聞いた。

「横田滋さんや、ほかのたくさんの方々が、(子供を取り戻したいという)道半ばで、亡くなりました。でもその魂は安らかであってほしいし、いつか天国で出会えますよね?」

 枢機卿は、はっきりとした口調で言った。

「ミスター横田は今生では娘さんとの再会はかないませんでした。でもいつか神が天で引き合わせてくれます。この地上で私たちが心を一つにすることは今は不可能でも、天の世界では可能なのです」

 深い言葉だ。斜に構えれば、「平和は現実には不可能だ」とも聞こえる。でも諦めたら、かりそめの平和や停戦、国交回復や拉致問題解決も永遠に解決しない。先日、総裁選前の石破氏に会った時、拉致問題について「表座敷で対話すること、また日本独自で取り組むことが大切です」と言ってくれた。新政権での解決を強く願う。

 絶対不滅なものもまた地上にはない。だから解決だってありうる。そう私は信じて歌い、書き、描き続けよう。横田滋さんの娘を思う気持ちは今も響いている。さざ波はいつか大きなうねりとなる。一人の父親の人生は、いつか歴史を変える大きな波にさえ成り得るだろう。

【PROFILE】
さかもと未明(さかもと・みめい)/1965年、横浜生まれ。1989年に漫画家デビューし、多方面で活躍するも2006年に膠原病を発症し、その後、活動を休止。一時期は余命宣告も受けた。手が動かない時期に歌手活動を開始。2017年には吉井画廊で画家デビュー。北朝鮮による拉致被害者の救済活動にも積極的に取り組んでおり、2018年にはバチカンの聖マリア・マッジョーレ大聖堂で拉致被害者の帰国を祈り『青い伝説』を、2024年はに聖パオロ大聖堂で『はな』を歌唱している。

【YouTube 動画リンク】
To Megumi ~めぐみへ~ 横田夫妻からのメッセージ

さかもと未明による北朝鮮による拉致被害者家族連絡会 飯塚 繁雄(いいづか しげお)さんへのインタビュー

拉致被害者の帰国を祈り、さかもと未明がバチカンの聖マリア・マッジョーレ大聖堂で歌う『青い伝説』

『HANA~はな~』 Mimei Sakamoto(solo performance at SAN PAOLO BASILICA)

関連キーワード

関連記事

トピックス

初公判は9月9日に大阪地裁で開かれた
「全裸で浴槽の中にしゃがみ…」「拒否ったら鼻の骨を折ります」コスプレイヤー・佐藤沙希被告の被害男性が明かした“エグい暴行”「警察が『今しかないよ』と言ってくれて…」
NEWSポストセブン
指名手配中の八田與一容疑者(提供:大分県警)
《ひき逃げ手配犯・八田與一の母を直撃》「警察にはもう話したので…」“アクセルベタ踏み”で2人死傷から3年半、“女手ひとつで一生懸命育てた実母”が記者に語ったこと
NEWSポストセブン
初公判では、証拠取調べにおいて、弁護人はその大半の証拠の取調べに対し不同意としている
《交際相手の乳首と左薬指を切断》「切っても再生するから」「生活保護受けろ」コスプレイヤー・佐藤沙希被告の被害男性が語った“おぞましいほどの恐怖支配”と交際の実態
NEWSポストセブン
芸能活動を再開することがわかった新井浩文(時事通信フォト)
「ウチも性格上ぱぁ~っと言いたいタイプ」俳優・新井浩文が激ヤセ乗り越えて“1日限定”の舞台復帰を選んだ背景
NEWSポストセブン
国分太一の素顔を知る『ガチンコ!』で共演の武道家・大和龍門氏が激白(左/時事通信フォト)
「あなたは日テレに捨てられたんだよっ!」国分太一の素顔を知る『ガチンコ!』で共演の武道家・大和龍門氏が激白「今の状態で戻っても…」「スパッと見切りを」
NEWSポストセブン
2009年8月6日に世田谷区の自宅で亡くなった大原麗子
《私は絶対にやらない》大原麗子さんが孤独な最期を迎えたベッドルーム「女優だから信念を曲げたくない」金銭苦のなかで断り続けた“意外な仕事” 
NEWSポストセブン
ドラフト1位の大谷に次いでドラフト2位で入団した森本龍弥さん(時事通信)
「二次会には絶対来なかった」大谷翔平に次ぐドラフト2位だった森本龍弥さんが明かす野球人生と“大谷の素顔”…「グラウンドに誰もいなくなってから1人で黙々と練習」
NEWSポストセブン
小説「ロリータ」からの引用か(Aでメイン、民主党資料より)
《女性たちの胸元、足、腰に書き込まれた文字の不気味…》10代少女らが被害を受けた闇深い人身売買事件で写真公開 米・心理学者が分析する“嫌悪される理由”とは
NEWSポストセブン
ラオスを訪問された愛子さま(写真/共同通信社)
《「水光肌メイク」に絶賛の声》愛子さま「内側から発光しているようなツヤ感」の美肌の秘密 美容関係者は「清潔感・品格・フレッシュさの三拍子がそろった理想の皇族メイク」と分析
NEWSポストセブン
国宝級イケメンとして女性ファンが多い八木(本人のInstagramより)
「国宝級イケメン」FANTASTICS・八木勇征(28)が“韓国系カリスマギャル”と破局していた 原因となった“価値感の違い”
NEWSポストセブン
今回公開された資料には若い女性と見られる人物がクリントン氏の肩に手を回している写真などが含まれていた
「君は年を取りすぎている」「マッサージの仕事名目で…」当時16歳の性的虐待の被害者女性が訴え “エプスタインファイル”公開で見える人身売買事件のリアル
NEWSポストセブン
タレントでプロレスラーの上原わかな
「この体型ってプロレス的にはプラスなのかな?」ウエスト58センチ、太もも59センチの上原わかながムチムチボディを肯定できるようになった理由【2023年リングデビュー】
NEWSポストセブン