兵庫県知事選挙が告示され第一声を上げた後、支援者と握手する斎藤元彦前知事(左)。10月31日(時事通信フォト)

兵庫県知事選挙が告示され第一声を上げた後、支援者と握手する斎藤元彦前知事(左)。10月31日(時事通信フォト)

 パワハラ疑惑やおねだり体質などを巡る文書問題から、アンケート調査が行われ百条委員会が立ち上がり、県議会で不信任案が可決し自動失職した斎藤氏。だが選挙が始まると疑惑はデマ、斎藤氏は陰謀に巻き込まれたという情報がSNSで飛び交った。何がデマで、どんな陰謀なのか。SNSの情報を検証したメディアはなく、確証バイアスによって斎藤氏への支持は日増しに拡大。陥れられた?という斎藤氏には同情が集まり、それでも戦う”不屈の精神”に共感が寄せられた。背景には県庁や県議会への不満、偏ったマスコミ報道への批判、メディアへの不信感があったといわれている。

“メディアを始めとする大方の予想に反し圧勝、SNSを駆使した選挙活動を展開、かけられた疑惑に捏造や陰謀論が巻き起こり、それを信じる人たちの間で支持が拡大”。斎藤氏の勝利は、先日行われた米国の大統領選挙で勝利したトランプ氏のケースとよく似ている。その背景にも社会や現状への不満、メディアへの不信感があるといわれていた。

“社会への不満が強い人ほど陰謀論を信じやすい傾向にある”。これは鹿児島大学の大園博記准教授らの研究で明らかになった、陰謀論を信じやすい人の心理的特徴だ。さらに論理的思考が苦手な人も陰謀論に傾倒しやすいという。社会やメディアに不信感や不満を持っていた人々は、ネット上に表れる情報を信じ、街頭演説で支持者たちの高まる熱量に触れ、”そうだったのか!”と真実を知った気になっていく。

 人気漫画が原作のドラマで菅田将暉さんが主演した『ミステリと言う勿れ』の中に、主人公の久能整が刑事に対してこう述べるシーンがある。「真実は人の数だけあるんですよ。でも、事実は1つです」。

 斎藤氏が考える真実もあれば、パワハラを受けたという県庁職員にも真実がある。百条委員会は人によって変わる真実ではなく、事実を調査する。今回の選挙は百条委員会による調査結果が出る前に行われ、兵庫県民には疑惑が事実か真実か見極めるだけの情報も時間もなかった。既存メディアはSNSで流される情報を検証せず、斎藤氏は陰謀論を完全否定しなかった。

「法的に問題はなかった」と繰り返す斎藤氏に、県議員や県職員がどこまでついていけるのか。「あってはならんことになった」、兵庫県議員が述べた言葉が、これ以上現実にならないことを願うばかりだ。

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