大西瀧治郎(写真/共同通信社)

大西瀧治郎(写真/共同通信社)

「戦争の反省から、自由と民主主義と人権を掲げて国を立て直した」は建前

佐藤:キリスト教神学で「予型論」と言って、新約聖書で起きることはすべて旧約聖書にその予型があるという考え方がある。そのように、昭和20年の中に昭和100年の予型があるとは言えないか。昭和20年8月15日でやはり歴史は一度閉じていて、その後は進歩も退化もなく、反復している、と。

 その視点から特攻(特別攻撃隊)を見るとどうか。あれは日本特有の現象だなんて言われますが、まったくそうではない。今年7月にイスラエルに行ったら、「いやあ特攻には共感を持てるよ」なんて言われた。イスラエルの内在的論理である、全世界を敵に回してでも戦うという気概は、かつての日本にも通じるところがあるからだ。

片山:そうですね。特攻はイスラーム過激派の人々にも共感を呼んでいたみたいですし。

佐藤:悠久の大義のために死ねば民族の中で永遠に生きるとか、個々人の生命は国家と一体になるといった信仰は、戦争中の国ではよく生じる。日本特有の極度に特殊なものとして扱うほうが危険だと思う。アルカーイダからISIS、ハマスまですべての自爆攻撃を累積したら、日本軍の特攻より多くなるでしょう。

片山:おそらくそうでしょうね。神風特攻の産みの親である海軍中将の大西瀧治郎は戦争末期に、「日本人が2000万人特攻すれば勝てる」と言ったとされていますが、あれは本土決戦でそれだけ自爆すれば、という意味でしょう。そんな大西はかなり異端扱いされた。

佐藤:むしろ日本の不思議なところは、昭和20年に白旗をあげるにしても、早いですよね。余力を残して降伏した。ドイツは国力の限界まで続行した。

片山:ドイツは本土決戦、首都攻防戦ですからね。日本はたしかに、主要都市は焼野原になりましたが、本土決戦をやらずに降伏したのは大きい。

 それに、ポツダム宣言受諾を決めたのは、これ以上やると国体護持ができなくなる、天皇制が壊れるから、と平沼騏一郎らがみんな思ったから賛成したわけで。しかも国民に納得させるには天皇しかいないと。それで玉音放送をやって、結局、天皇でうまくいったという決定的な成功体験になったわけでしょう。

佐藤:はい。そして戦後は日米同盟を結び、いまに至りますが、ひとつ注意すべきことがある。「戦争の反省から、自由と民主主義と人権を掲げて国を立て直した」という、多くの人が信じている話はあくまで顕教の部分、建前だということ。

 密教の部分、つまり本音はなにかと言うと、アメリカと二度と戦争しないために同盟を結んでいるだけだ、ということです。アングロサクソンが戦争好きで、強いし、残虐だと知ってしまったから。戦前の日本人は、アメリカ人があそこまで残虐な連中だと理解していただろうか?

片山:いや、していないでしょう。やはり米英に対する甘さがあった。

佐藤:アメリカは敵と認定したら東京大空襲のようなことを実行してしまう。一晩に通常爆弾で10も焼き殺すのは、空前絶後ですよ。

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