森に囲まれた敷地にあるアトリエ前で。1984年から2010年まで「富良野塾」を開塾、若い役者たちを育てた。現在も断続的にワークショップを開催している

森に囲まれた敷地にあるアトリエ前で。1984年から2010年まで「富良野塾」を開塾、若い役者たちを育てた。現在も断続的にワークショップを開催している (撮影/太田真三)

都会のあほらしさが見えてきた

『北の国から』シリーズの第一話は、黒板一家の純(吉岡秀隆)の「電気がなかったら暮らせませんよッ」という父・五郎(田中邦衛)に向けた台詞から始まる。まさにそれは、電気もガスも水道もない富良野にやってきた倉本自身の目線だった。

「暮らし始めた最初は見るもの聞くものが珍しく新しくて、まさに純の視線でした。でも、北海道の人と出会い、荒れ果てた森と向き合ったりしながら、少しずつわかってきたら、シリーズの後半からは五郎の目線になっていった。経済だけしか見てない都会のあほらしさが見えてきたんです」

 バブル期前後の社会の矛盾や人間の喪失感を射た倉本は、シリーズ最終話「2002遺言」まで最果ての地から世の中に「本当にそれでいいのか」と問い続けた。

 倉本は一方で、テレビという媒体に対しても常に石を投げ続けてきた。老人ホームを舞台にした『やすらぎの郷』(テレビ朝日系、2017年)にも容赦ないテレビ批判が込められていた。

 タバコをくゆらせながら、倉本聰はこう語る。

「昔、一緒に仕事した連中、情熱を共有していた人たちはみんな死んじゃったし、若い人のテレビ離れもあるし、時代は変わってしまっている。テレビも映画も、昔は感動をめざしていたけれど、いまは快感を目的につくられているでしょ。面白ければいい、すぐに忘れられてもいい、と。でもね、昔の映画とかは、いま見返しても泣けちゃうんです。心に残る、何度でも見られる、それが本物の作品なんじゃないかなと思います。そんないい外国映画を見たときには、書きたいという創作意欲、情熱も湧いてくる。書ける間はまだまだ書き続けたいと思ってます」

 60年以上にわたって第一線を駆け抜けてきた脚本家は、たったいまも今夏放送予定の新ドラマと格闘している。卒寿を迎えた倉本聰は、いったいどんな問いを私たちに投げかけてくるのだろう。

取材・文/一志治夫

※週刊ポスト2025年1月3・10日号

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