フェイクニュース「オスのマウスが肛門から出産」が拡散(写真提供/イメージマート)
SNSの普及と共に、問題が指摘されることが増えたフェイクニュース。たわいもない内容なら信じるも信じないも好きにすればよいと思うかもしれないが、人がフェイクニュースを信じてしまう仕組みを悪用して、詐欺や社会の扇動を狙うものもある。臨床心理士の岡村美奈さんが、Xで拡散された「オスのマウスが肛門から出産に成功」というフェイクニュースを足がかりに、フェイクニュースを信じてしまう心理傾向について分析する。
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X上に4月22日、「オスのマウスが肛門から出産に成功。革新的な生殖技術の進展」という記事が投稿された。タイトルからして興味をそそられるこの投稿は、短時間のうちに40万件もインプレッションがあり拡散。実はXで利用できる生成AI「Grok」で作られたフェイクニュースだった。
タイトルを見た多くの人の脳裏に浮かんだのは“そんなことがあるのか?”という疑問か“そんなことがあるわけない!”という否定、”ここまできたのか!?”という驚きのどれかではないだろうか。この拡散を報じた「ITmediaNEWS」によると、「Xの投稿に対する反応などを見るに、ほとんどの読者がフェイクに気付いていない様子だ」とあり、驚きとともに信じた人が多かったようだ。落ち着いて考えれば、オスのマウスが、しかも肛門からとなると、フェイクとわかりそうなものだ。なぜ人々はこれを信じてしまったのだろうか。
投稿者は「ツイッター速報」という5ちゃんねるの話題を自動投稿するアカウント。このアカウントに問題の書き込みが転載され投稿された。だがこの書き込みこそが生成AIで作成されたフェイク。一緒に投稿されていた画像は細胞が分裂し成長しているようにも見え、”革新的な生殖技術”という最先端の再生医療技術を連想させるのに十分なものだった。
元の書き込みは同日の午後2時頃、「オスのマウスが肛門から出産に成功、革新的な生殖技術の進展 **2025年4月22日、上海発**」として書き込まれた。上海の海軍医科大学の研究チームが、オスのマウスが肛門から子を出産させることに成功したと発表。実験の概要と機序を解説するという真実味を匂わせる内容だけに、読んだことでさらに信じた人もいただろう。
ここには人々が信じやすいキーワードが3つあった。まずは実験が”マウス”で行われたということ。これまでにもマウスに様々な臓器を移植したというニュースが話題になってきただけに、マウスならありえると思わせた。