富士重工業が1958年に発売した同社初の軽自動車「スバル360」。最近は旧車会のイメージが重ねられるのを敬遠してか、旧車では無くヴィンテージカーと呼ばれることが多い(時事通信フォト)
このような状態だから、一般市民の旧車會に対する嫌悪感も、特にこの数年ですっかり強化されている。特に、SNS上では暴走族とは違う「旧車會」は渋くてかっこいい、という一部で語られていたイメージは、すでに「暴走族」とか、暴走族を揶揄する「珍走団」なる蔑称で語られるまで落ちた。SNS上には、旧車會に批判的な意見が多いが、中には車會のメンバー自らが、改造バイクやツーリングと称した危険走行シーンをSNSにアップする。当然、激烈に叩かれ、炎上する。しかし、旧車會はいなくならない。
「バチバチに叩かれても気にしない。最近の若いやつは。むしろもっと見てって感じ。俺のコール(筆者註・エンジンを吹かすリズム)やばくね?とか」
あっさりこう答えるのは、筆者が以前、雑誌の取材で訪ねた「旧車會イベント」で知り合った男性だ。当時はとある旧車會の一メンバーに過ぎなかったが、今は副業で、旧車の買い付けや販売、カスタムまで行っているという。
「正直、あんた(筆者)もめちゃくちゃに俺らのこと悪く書くでしょう(笑)。まあ、若い奴もたくさん増えて、旧車じゃないバイクでツーリングする奴もいて、確かに暴走族とあまり変わらなくなってきたところはある。ただ、俺は旧車が好きだからこの仕事してますよ。イベントも、昔みたいに、中学生に原チャリでコールさせたりとか、そういうのはもうしませんよ。ちょっとイメージが悪すぎるのでね、最近。暴力団、半グレみたいなのが普通にいる。これじゃ旧車好きが本当に潰されてしまいます」(旧車會イベントで知り合った男性)
中学生が原付バイクを運転する映像を撮影したり公開することは、たとえそれが私有地内での出来事であったとしても、イメージが悪いどころの話ではないと思うのだが、旧車會の世界にずっと身を置いていると、そのあたりの線引きがズレてくるのかもしれない。とはいえ、彼は旧車會に関わる人たちのなかでは、社会的に問題ある存在とされることの危険性に気づいているほうだろう。
それでも旧車會との接点を切ろうとしないのは、男性にとって「小遣い稼ぎになっているから」という側面もある。だが、あまりにも旧車會が嫌われていることを危惧もしている。SNSでも実生活上でも、旧車會に対する厳しい声は年々増大している。一方で、旧車會に所属し公道上で危険走行をしたとして検挙された俳優の男は、その後業界に復帰し、ファンらからは称賛されているとも聞く。
近年では、おしゃれなエリアとして有名な東京の表参道や銀座、渋谷でも、集団走行をする「旧車會」の姿が目撃されるようになった。ほとんどの通行人が「ダサい」「まだいたのか」と笑ったり、スマホを向けて写真や動画を撮影していたりする。ところが、旧車にまたがる人たちは自信満々といった様子。まさに、通行人に自慢の愛車を見せつけているかのようでもある。
社会と旧車會の間に横たわる溝は、どんどん広がるばかりのようだ。
