無名塾をともに創立した宮崎の写真が稽古場「仲代劇堂」を見守る
「演劇の神様に運よく救われている」
稽古に入る前、仲代は入念に準備を行なう。
「80歳ぐらいまでは砧公園で塾生と一緒に走っていましたけど、いまは毎日、ストレッチと発声訓練を45分やる。俳優座で『一、声 二、振り 三、姿』と教えられ、腹式呼吸を徹底的にやらされたので、いまも続けています」
仲代の楽しみは稽古後の晩酌だ。
「まずビールの大きいやつを一缶、おつまみを食べているうちに日本酒を一合飲むかとなって、焼酎をやって、最後にウイスキーを少し。昔は一晩に一升飲んでたんだから、随分減りましたよ」
しかし、どんなに稽古に疲れ、飲んで寝たとしても、老巧の人から役者魂が消えることはない。
「夜中の3時頃に目が覚めちゃうこともあるんです。そうすると、台本を出して一生懸命覚えて、また朝方に寝る。それをやらないと舞台の上で恥をかく。そういう気持ちで70年以上役者をやってきた。なんとか演劇の神様に運よく救われているんですよ、私は」
能登演劇堂での公演は全20公演。92歳の役者は、その日に向かって、ひたすら鍛錬を重ねていく。
【プロフィール】
仲代達矢(なかだい・たつや)/1932年生まれ、東京都出身。1952年に俳優座付属俳優養成所に入所。舞台『ハムレット』『どん底』、映画『人間の條件』『切腹』『影武者』『乱』など出演作多数。芸術選奨文部大臣賞、読売演劇大賞など数々の賞を受賞している。
■舞台『肝っ玉おっ母と子供たち』
公演期間:5月30日~6月22日 全20公演
劇場:能登演劇堂(石川県七尾市中島町中島上部9番地)
取材・文/一志治夫 撮影/江森康之
※週刊ポスト2025年5月23日号
■舞台『肝っ玉おっ母と子供たち』公演期間:5月30日~6月22日/全20公演/劇場:能登演劇堂(石川県七尾市中島町中島上部9番地)