「〈ゆりかご〉出身の全員が、幸せを感じて生きられるのが理想です。」
東京の内密出産と赤ちゃん受け入れは「リスクが高い」
──国内ではこれまで、赤ちゃんの匿名での預け入れや内密出産を行うのは、熊本の慈恵病院だけでした。ところが今年、東京の賛育会病院が同様の受け入れ運用を始め、それを慈恵病院側が批判するなど議論が起こっています。航一さんは当事者として、この流れをどう捉えていますか。
宮津:まず、命を救う取り組みが熊本以外の病院でも始まることはとても大切だし、前向きに進んでほしいです。
一方で、赤ちゃんの預け入れと内密出産を同時に行うのは、リスクの高さも感じます。しかもそれを東京で始めるのは、相当ハードでしょう。
──慎重な対応が求められるということですね。どのような部分に難しさを感じますか?
宮津:熊本の〈ゆりかご〉は、関東圏からの子どもの預け入れが非常に多いです。また、預け入れまで至らなくても、関東圏からの相談も多いという話を聞いています。ですから、母子を受け入れる病院が関東にできたら、預け入れや内密出産の相談が殺到するのではないかという懸念があります。
でも、新規参入する病院は、慈恵病院に比べて受け入れ体制がどこまで整っているのか、未知数な部分があるのではないでしょうか。
──なるほど。
宮津:あと、「これから出産する妊婦」と「既に生まれた赤ちゃん」の受け入れは全く別物なので、両方を同時に行うのは相当大変なはずです。
通常の出産でも妊婦さんにはさまざまなケアが必要ですが、内密出産は産む前の相談から始まり、母親の産前・産後のメンタルケア、生まれた子の受け入れ先はどうするか、さらに子どもの出自をどう守るかなど、幅広い視点と多くの専門スタッフを必要とします。産後は母子2人への配慮が必要なので、病院は膨大なエネルギーを使うことになります。
──たしかにそうですね。
宮津:ですから個人的には、先に匿名での赤ちゃんの預け入れから始めて、病院側の体制が整ったところで内密出産の受け入れまで広げればよかったのではないかと……。ただ、賛育会病院はもう運用をスタートしているので、始めたからにはさまざまな問題をクリアしながら進めてほしいですね。