熊本の子ども向け教育プロジェクト「子ども大学くまもと」で講演する宮津さん
「産みづらさ」を感じさせる《親まかせ》社会
──先日、2024年の国内出生数が70万人を割り、少子化が加速していることが報道されました。SNSでは「産みづらさ」を訴える人も多いです。子どもをもつことにハードルを感じる人が増えているのは、なぜだと思いますか。
宮津:〈ゆりかご〉当事者として思うのは、すべての命が周囲から祝福され、喜びに包まれながら生まれるわけではない、という現実です。産むのをためらう理由はさまざまでしょうが、その背景には「生まれた子どもは親の責任で育てるべき。周囲に頼るな」という、無言の社会圧があると思います。
──そういう社会だと「妊娠した、でも周りに知られたくない」という妊婦さんは追い詰められますね。
宮津:妊娠中に「誰にも知られずに生まねばならない」というプレッシャーがかかるのは、とても悲しいことです。でも実際は、親が責められやすい《親任せ》社会になっていると感じます。
とくにシングル子育て世帯は「ひとり親だと子どもがまともに育たない」と色眼鏡で見られることがあります。そうなると、子どもを産むだけでも大変なのに「日本で育てる未来に希望が描けない」「子を持つ人生は本当によいものだろうか?」と感じる大人も多いのではないでしょうか。
──そうですね。
宮津:でも、どんな環境で生まれるにしろ、すべての子どもたちには幸せになるべきです。ですから一番大事なのは「身を置いた環境で、誰と出会い、誰と関わるか」だと思います。
〈ゆりかご〉に預けられた子どもは、実親の元に戻るケースもわりと多いんですよ。でも、その子にとって最も幸福な環境を考えたときに、必ずしも実親の元がいいのか。一概には言えません。血のつながった家族と暮らすのが絶対的な正解かというと、私は「そうでもない」と思っているんです。実親の元に戻ってから親子心中で亡くなったケースもあれば、里親家庭で育ち「幸せだな」と感じている私のようなケースもある。
ですから、子どもは実親だけでなく、周辺社会も巻き込んで育てるのが理想だと思います。大切なことは「その子に親身になってくれる大人が、周りにどれだけいるか」。そして、その子を支える大人は必ずしも血のつながりがなくてもいい。そういう社会のほうが、ずっと生きやすいのではないでしょうか。