「すごく印象的で、小説に描きたいなと思った」先生の話

 日韓の複雑な歴史について何も知らなかった陽奈だが、ソウルで暮らすなかで次第に視野が広がり、過去に思いをはせるようにもなる。

「若い世代のキラキラした韓国のイメージと、ヘイトスピーチとの間にはすごく隔たりがあります。在日コリアンにもいろんな方がおられ、それぞれの世界が交わってなかったりもする。ダンスをするために15歳で韓国に渡った何も知らない陽奈の目を通して描くことで、これまで自分も知らなかった歴史や過去の記憶もつながっていくんじゃないかと思いました。

 私自身、日韓の歴史を戦前の植民地の時代からぐらいの幅で捉えていましたが、飛び込み取材で出会った在日コリアンの女性が『隣国としての長い歴史があり、諍いも平和な時代もありずっと交流が続いている』と仰ったのを聞いて涙が出ました」

 人の話を聞くのが好きだという櫻木さん。白いドレスを着た女性が曾祖父の葬儀に来ていたことを陽奈がおぼろげに覚えているエピソードは、櫻木さんが暮らす、滋賀県の沖島で知人から聞いた話だそうだ。

「本が好きな先生がいらしてよく立ち話をするんですけど、『今、韓国のことを書こうとしているんですけど何か韓国にまつわる思い出はありますか?』と聞いたら、『おじいさんの葬式でチマチョゴリを着た女性が遠くからお辞儀をしていて、あとで聞いたらおじいちゃんのかつての恋人だった』と話してくださったんです。すごく印象的で、小説に描きたいなと思いました」

 沖島は琵琶湖で唯一の有人島である。ある日、雨宿りのために入ったカフェで、偶然、沖島のことを書いた新聞記事を目にする。この島に行ってみたいと思っていたところ、記事で沖島のPRをしていると書かれていた女性がカフェに入ってきたそう。彼女に移住促進のためのリフォームが近く完成する空き家があると教えてもらい、半年ぐらいのつもりで移り住んで4年になるそう。小説のように劇的な展開だ。

「島のお年寄りに話を聞くため、『100歳体操』に参加して、体操が終わると話を聞いています。一人ひとりの中に財宝のようなお話があって、いつか沖島のことを書きたいです」

【プロフィール】
櫻木みわ(さくらき・みわ)/1978年福岡県生まれ。タイ、東ティモール、フランス滞在などを経て、2018年に作品集『うつくしい繭』で単行本デビュー。著書に『コークスが燃えている』『カサンドラのティータイム』。現在は滋賀県・琵琶湖で唯一の有人の島・沖島に在住。

取材・構成/佐久間文子

※女性セブン2025年7月17日号

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