被害者のAさんが住んでいた総世帯数179戸のタワーマンション
Aさんの死を聞いて「驚いた」理由
事件当日、和久井被告は計画通りAさんにナイフを見せて声をかけたが、想定通りにはいかなかった。Aさんは大声を出し、周囲にも人が集まってしまった。この時点で目標が達成されないことは明白であるが「捕えたら、静かになって返してくれるかもと思った」と、まだ諦めていなかったという。
その後のナイフを使った犯行については、和久井被告の記憶は曖昧になっている。自身は4箇所の刺し傷しか記憶がないというが、Aさんの遺体には20箇所以上の傷が残っていた。一方で、傷は顔より下にしかなかった。検察官は「意図的に顔を避けたのか」と聞いたが、明確な答えはなかった。
和久井被告がAさんの死亡したのを知ったのは、事件から3~4日後の留置所にいる際、嫌疑が殺人未遂から殺人に変わったときだった。Aさんの死を知らされた際にどのような感情になったかと検察に問われると、こう振り返った。
被告人「そんなに刺した記憶もなく、刺した感触もそんななかったので、驚いた」
淡々と語る被告人からは、殺人という重大な出来事に対する後悔の念を感じ取ることはできなかった。重ねて検察官が遺族に対する謝罪の意を問うと、被告人は驚愕の言葉を発したのだった——。
(後編につづく)
◆取材・文/普通(傍聴ライター)