『国宝』で梨園の妻を演じた寺島しのぶは七代目尾上菊五郎の長女(時事通信フォト)
陰口も聞かれた実子以外での名跡継承
『国宝』の大きな軸となるのは、「部屋子(へやご・幹部俳優に預けられた役者見習い)」の喜久雄と、御曹司である俊介(横浜流星)の名跡争いだ。現実の梨園では、大名跡のほとんどは実子への世襲で成り立つ。
「歌舞伎座で主役を張る看板役者は9割が世襲。梨園は血縁や家柄を優先する傾向が根強く三代、四代と遡ればほとんどが縁戚関係にあたる。歌舞伎界の名門は、いわば一つの大きな家族のようなものです」(舞台関係者)
ただし、実子を差し置いて外部の人間が大名跡を継ぐケースもある。その代表例が、ネット上で「喜久雄のモデル」と囁かれる人間国宝の五代目坂東玉三郎(75)だ。
「四代目には実の息子がいたが、役者を廃業したため、元々部屋子だった五代目が養子に入り、名跡を継いだ。五代目には実子がおらず、人間国宝の名跡がどうなるか注目されています」(同前)
現在の玉三郎のように当主に実子がいない場合も、外部の人間が名跡を継ぐことがある。
「愛之助は十三代目片岡仁左衛門の次男である片岡秀太郎に男子がいなかったため、秀太郎と養子縁組して現在の地位を築きました。ただし愛之助が名跡を継ぐ際は、『外様なのに』との陰口も聞こえました」(芸能関係者)
その愛之助は襲名後、若手の登竜門とされる賞を席巻するなど、周囲の雑音をかき消す活躍を見せた。養父である秀太郎が提唱した「平成若衆歌舞伎」で伝統と現代演劇を融合させて活動を広げたほか、俳優としても名をあげ、上方歌舞伎の顔といえる存在になった。