『国宝』に出演する横浜流星(左)と吉沢亮
興行収入56億円超の大ヒットとなっている映画『国宝』。劇中の濃密な描写は、実在する歌舞伎俳優や梨園で起きた事件が“元ネタ”ではないか──ファンの間ではそんな声があがっている。梨園の内実を知れば、映画がもっと面白くなる。
『国宝』は歌舞伎の世界に魅せられたヤクザ組長の息子・喜久雄(吉沢亮)の一代記。3時間と長尺だが、濃密な内容で劇場に何度も足を運ぶリピーターも多いという。
原作小説を手がけた作家・吉田修一氏は、3年もの間、黒衣(くろご・舞台上で演者を補助する後見)として歌舞伎の舞台裏に入り込み、リアルな取材を続けたという。李相日監督は「特定のモデルは存在しない」と語っているが、作中の出来事は現実の歌舞伎界を想起させるものが少なくない。
『国宝』を一層楽しむために作中のシーンと照らし合わせて見ていこう。
團十郎も幸四郎も…明るみになった隠し子の存在
『国宝』の主人公である喜久雄には祇園の芸妓・藤駒(見上愛)との間に隠し子がおり、その子が重要な役割を果たす。
現実の梨園の世界でもたびたび、隠し子の存在が明るみに出てきた。
成田屋の御曹司・十三代目市川團十郎(47)は、新之助時代の2003年に4歳年上の元歌手との間に1歳になる女児がいることが発覚。深夜に開いた釈明会見で「認知はしたが、結婚はしません」と言い切り、こうも述べた。
「僕は子供の頃から、この歌舞伎の世界におりまして、周りの環境がどうであれ、これが普通だと思っておりました」
十代目松本幸四郎(52)も1997年、18歳の時に韓国人の元女優との間に女児が産まれていたことが報じられた。養育費を払っていると認めたうえで、「子供の顔は一度も見ていない。これからも会うつもりもない」と語って批難も受けた。
『国宝』の舞台である上方歌舞伎でも、六代目片岡愛之助(53)が2011年、京都在住の元ホステスとの間に小学5年生の男児がいることが発覚している。芸能ジャーナリストの城下尊之氏が言う。
「梨園の一部には『モテない役者は役者ではない』との考えが根強くあり、先代も先々代も複数の女性と関係を持っているのを見て“それが当たり前”という感覚もあるのでしょう。ただし、無責任に終わらせることもしない。結婚はしなくても子供の養育費をきちんと払う対応は共通しています。隠し子と言われますが、愛之助さんは高校生になった息子と頻繁に会って交流していると報じられたこともありました」