都知事選で旋風を起こした石丸伸二氏は再生の党を旗揚げして都議選・参院選に候補者を擁立したが、どちらも当選者を出せなかった(写真撮影:小川裕夫)
さや氏は新人候補で、それまでに官僚だったとか市職員、地方議員だったわけでもない。つまり、行政経験はまったくない。そういった経験の少なさからだろう、さや氏が演説で語る内容は稚拙なものだった。
新人候補が政策を語れないことは、ある意味で仕方がない。新人候補を厳しく見たら、それこそ政治はプロ集団だけの独壇場となりタコツボ化してしまう。だから筆者は新人候補に対しては割り引いて見るようにしているが、それでもさや氏が街頭演説で口にする内容は、控え目に解釈しても現実離れしていると言わざるをえない。悪し様に言えば床屋政談の域を出ないレベルといえる。
選挙期間中、さや氏が街頭演説で語る荒唐無稽な内容はネットニュースの格好な素材になることが多かったが、それはさや氏の政治観がネタっぽいことに起因していると言わざるを得ない。知名度や行政経験もなく、演説内容も荒唐無稽。本来なら、とても当選できるような候補ではない。それでもさや氏は下馬票を覆した。
参政党はネットを駆使して支持を拡大したと言われる。ネットで支持を拡大した選挙といえば、すぐに思い浮かぶのが2024年の東京都知事選挙だろう。石丸伸二氏は都知事選では想定外の165万票超の得票をしたことで寵児になったが、その原動力はネット、特に切り抜き動画と言われる15秒から60秒の短い動画だったと指摘されることが多い。
しかし、その分析は不完全と言わざるを得ない。2024都知事選に立候補者は56名いたが、その中でも石丸氏が実施した街頭演説の回数はダントツに多かった。恐らく、当選した小池百合子氏の5倍以上はしていたはずだ。
筆者は都知事選の告示日前後で石丸候補の街頭演説に5回以上は足を運んでいる。石丸氏は広島県安芸高田市の市長経験があるので、街頭演説でも安芸高田市で取り組んだ政治の成果を誇ると思っていたが、そうした話は短く、非常にコンパクトに演説をまとめていた。
通常、街頭演説の所要時間は1か所で1時間前後。ところが、石丸氏の街頭演説は15~20分で終わる。内容も政治の小難しい話はない。筆者のような各候補者の街頭演説をハシゴする奇特な人間は、短時間で終わる石丸氏の街頭演説を物足りなく感じてしまうだろうが、炎天下の東京では長々と街頭演説を聞くのは体力・精神力的にシンドい。石丸氏の、ある意味で”内容が薄い”演説は酷暑の都知事選に適っていた。