そのことを正直に伝えて、もしもやるなら、落ちこぼれの学校に現れた教師が「おまえら全員東大に行け」と、独自のメソッドで鍛えるようなものはどうでしょうと提案してみました。

「ゴラク」で身につけたハッタリをかますスタイルです。

 ところが、その編集長はこの方向にはあまり興味がなかったようで、その後、縁がなく終わりました。

 そこで、山中さんが学園教師ものと言いだしたときに、このアイデアを伝えたところ、面白いと言ってくれました。

 ところが、それまで黙って聞いていた新入社員の佐渡島さんが口を挟んできました。

「なんか、あんまり面白くないですね」

 とズバリ言ってくるのです。しかも、驚いたのは、つまらないと思った理由です。

「みんな、東大って入るのは難しいと思っているみたいですけど、簡単なんですよ」

 聞けば、佐渡島さんは、生徒の約半数が東京大学に進学するという灘高校の出身で、彼自身も東大に進んでいます。彼にとって東大は特別なものじゃないんです。だから、東大入試をテーマにしてもドラマにならないというわけです。

 憎たらしい奴だなと思ったものの、入社したばかりの新人編集者に「つまらない」と言われては、僕も引き下がれません。

「そうか、だったら主人公に『東大なんて簡単に入れる』と言わせればいい。そこから物語は始まる」と提案しました。むしろその方が、一般読者には新鮮な驚きがあるはずだ。これはいけるかもしれないと感じました。

「うん、それ、面白くなりますよ」

 山中さんは同意してくれました。

 佐渡島さんは、それでも納得していないようでしたが、彼は新入社員です。先輩の山中さんが乗り気なのだから逆らえません。最後は「よし、決まった。それでいきましょう。ありがとうございます。よかった、よかった」と、2人は帰っていきました。

──言うまでもない。これが三田の最大のヒット作となる『ドラゴン桜』が誕生した瞬間である。

 こうして企画が決まり、連載が立ち上がると、そこからは、山中はタッチせず、すべて佐渡島が担当することになった。つまり、三田は企画自体をつまらないと言っている編集者と一緒仕事をすることになったのである。

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