今井絵理子氏は知名度だけで当選したと言われることが多いが、街頭演説でも手話通訳をするなど、障害者福祉に力を入れている(写真撮影:小川裕夫)
沖縄出身という今井氏の経歴を踏まえれば、国政選挙に立候補を表明した時点でテレビ・新聞の取材陣が米軍基地問題の質問をすることは事前から容易に予測できる。今井氏はタレント活動で中学生の頃から東京で暮らしているから、沖縄の基地問題が自身にとって縁が遠く、それらの見識がないことは仕方がない面もある。
それでも政治家を目指す者として、事前に想定問答を作成するなどの準備はしておかなければならない。ところが、今井氏は基地問題に対して自身の考えを表明できなかった。この顛末だけを見れば、有権者から批判されるのは当然だ。また、プライベートでも多くの話題を振り撒き、それを批判されてもいる。
政治家も一人の人間なのだから、ある程度のプライベートは尊重されなければならない。そうした前提はあるものの、プライベートも含めた人柄なども一票を託すための判断指標になる。どんなに素晴らしい政策を掲げていても、普段は非常に暴力的でパワハラやDVの常習者だったら、有権者は信用して一票を投じることをためらうだろう。
とはいえ、そうしたプライベートの部分ばかりが注目されて、実際に取り組んだ政治活動にまったく光が当たらないこともタレント議員が背負う宿命でもある。
今井氏は息子さんが先天性難聴というハンデを負っており、そのために手話を習得した。そうした経験から障害者福祉に取り組もうと政治家を志したという。自民党の街頭演説に足を運ぶと、今井氏が率先して手話通訳を務める風景を目にできる。
有権者の中には聴覚障害者もいる。テレビやネットならリアルタイムで字幕が表示されるが、街頭演説では場所の都合などもあって字幕モニターを用意することが難しいこともある。
街頭演説で手話を導入することは、聴覚障害者が政治参加するための障壁をなくすという意味があり、それは「政治は誰一人として取り残さない」というメッセージにもつながっている。
今井氏の障害者福祉の取り組みは、「手話に関する施策の推進に関する法律(手話施策推進法)」という形でも実を結んでいる。それは共産党で政策通として知られ、自党だけではなく他党からも絶大な信頼を得ている大門実紀史参議院議員も評価している。
「こち亀」封印
社会を変えることは政治家にならなくても可能だが、政治家なら自分で法案を作成することもできるし、予算をつける立場にもなる。自分が理想と描く政治を実現するために政治家を目指す。それには、まず当選しなければ始まらない。