ラサール石井氏は亀有駅前で街頭演説し、その後に駅前を練り歩いた。こち亀像の前は素通り(写真撮影:小川裕夫)
当選するために、タレント候補は知名度という武器を十二分に活用することになる。ただし、公職選挙法の規定からは、例えば歌手の候補だと街頭演説・個人演説会などで歌や曲を披露すると利益供与とみなされるので露骨なことはできない。一小節ぐらいは大丈夫だが、一曲まるまるは歌えない。それは候補者だけではなく、応援弁士でも同じだ。一方で、ドラマやCMなどで有名になった決め台詞や流行語を口にすることは、公職選挙法で問題にならない。しかし、昨今はSNSでそれを咎める風潮が強くなっている。
今回の参院選でもそれが端的に表れ、ラサール石井氏は苦戦を強いられた。ラサール石井氏はコメディアンとして活躍したが、近年は舞台や声優など幅広い活動をしている。
世代を超えてラサール石井氏を有名にしたのが、大人気マンガ『こちら葛飾区亀有公園前派出所』(こち亀)のテレビアニメ版で主人公・両津勘吉の声優を務めたことだった。
こち亀は、葛飾区亀有を主な舞台にしている。近年、葛飾区は地域振興も兼ねて亀有駅の周辺にこち亀に登場するキャラクター像やレリーフなどを設置。また、亀有駅にはこち亀のテーマパークやミュージアムなども点在している。
ラサール石井氏は亀有駅周辺でも街頭演説を実施した。集まった報道陣はこち亀とのコラボを期待していたが、ラサール石井氏からはこち亀に関連する話がいっさい出ず、駅周辺にある両津勘吉像の前でフォトセッションタイムを設けることもなかった。街頭演説の終了後、撤収作業をしていたテレビクルーが「なんか締まりのない取材だったね」という不満が漏れていたほどだ。
ラサール石井氏がこち亀との関連性を徹底的に封印したのは、SNSを介して「こち亀を政治利用するな!」という声が目立ち始めてからだった。昨今、「音楽に政治を持ち込むな!」といったような”政治を持ち込むな警察”はあらゆる場面で出現する。それらは、自分の気に食わない政治思想・信条に対して向けられることがほとんどだ。