牛田茉友氏はNHKの元アナウンサーだったこともあり、街頭演説を追っかける熱烈なファンもいた(写真撮影:小川裕夫)
スポーツや芸能で全国での知名度や人気が高い人が、選挙へ立候補すると「タレント候補」と呼ばれる。最近では皆が人気のテレビ番組や映画を見るような習慣が薄れ、好きなジャンルごとに興味が分散され国民的な有名人が生まれにくいが、それでもあらかじめ知名度が高い「タレント候補」の立候補は続いているし、当選して新たなタレント議員も生まれている。選挙の取材を長年、続けているライターの小川裕夫氏が、2025参院選におけるタレント候補者たちの選挙活動にあらわれた変化についてレポートする。
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2025年7月20日に投開票された第27回参議院議員選挙は、多くのタレント候補が名乗りをあげた。衆参を問わず、国政選挙にはタレント候補と呼ばれる人が立候補することは珍しくない。タレント候補とは、一般的に芸能人・スポーツ選手・作家・芸術家など政治とは直接関係がなかった分野で活躍した有名人が選挙に出た際の呼び名だ。
華やかな世界で活躍した人たちが、新たな活躍の場に政治の世界を求めるのは日本に限った現象ではない。アメリカでは第40代大統領に就任したロナルド・レーガン氏も政治家になる前は映画俳優だった。現在、ウクライナ大統領を務めるウォロディミル・ゼレンスキー氏も元コメディアン・俳優という経歴を有する。
今回の参議院選挙でも、ソウル五輪の金メダリスト・鈴木大地氏が自民党から、ジャズ歌手のさや(塩入清香)氏が参政党から、元NHKアナウンサーの牛田茉友氏が国民民主党から、お笑いタレントで俳優のラサール石井氏が社民党から、ミュージシャンの世良公則氏は無所属で、それぞれ国政に初挑戦した。
また、立憲民主党から東京選挙区で擁立されたアカペラボーカルグループRAG FAIR元メンバーの奥村政佳氏や全国比例で擁立された蓮舫氏はグラビアアイドルとして活躍したのち報道キャスターだったし、国民民主党から全国比例で出馬した須藤元気氏は格闘家やタレントとしての活躍が知られている。彼らは国会議員の経験があるものの、今でも、その経歴からタレント候補と見られることがある。
諸外国では一国のトップにまで上り詰めるタレントがいる一方、日本ではタレント候補に厳しい目が向けられる傾向は強い。その最たる例が、ダンスユニットSPEEDのメインボーカルとして活躍した今井絵理子氏だろう。今井氏は2016年の参院選で初当選を飾り、2022年の参院選でも再選を果たした。
街頭演説で手話通訳
2016年の初出馬時、今井氏は殺到する取材陣に対して沖縄の基地問題について所見を述べることができなかった。そうした面がクローズアップされ、「政治への意欲もなく見識もないのに、知名度だけで当選した」といった批判が相次いだ。再選時にも、同じような批判が繰り返された。