金子真人オーナーのすごさを国枝栄・調教師が語る
1978年に調教助手として競馬界に入り、1989年に調教師免許を取得。以来、アパパネ、アーモンドアイという2頭の牝馬三冠を育てた現役最多勝調教師・国枝栄氏が、2026年2月いっぱいで引退する。国枝調教師が華やかで波乱に満ちた48年の競馬人生を振り返りつつ、サラブレッドという動物の魅力を綴るコラム連載「人間万事塞翁が競馬」から、金子真人オーナー所有馬の思い出についてお届けする。
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金子真人オーナーからは、毎年2頭ぐらいずつ預けていただいた。通算1110勝のうち、実に106勝が金子オーナーの馬(8月17日終了時点)で、もちろん厩舎の勝ち頭。これは私に限ったことではなく、何人もの調教師が金子オーナーのおかげでリーディング上位に名を連ねることができている。
現在の日本競馬の立ち位置を考えれば、個人としては世界一のオーナーと言っても過言ではない。馬主業というのはいわば壮大なギャンブルだが、金子オーナーにとっては決して「賭け事」ではなく、「確信」がおありなのだろう。いったいどんな規準で「走る馬」を判断されるのか、私もぜひ知りたいものだと思っている。
白毛馬ハヤヤッコも金子オーナーの馬。3歳でダート重賞レパードステークスを勝ったが、芝でも重馬場でもよく走ってくれた。とにかく丈夫でエネルギーに満ちていて、年をとっても若々しく、いつもキョロキョロしていて牝馬を見つけると近くに寄って行くなど好奇心旺盛。管理していてとても楽しかった。
ハヤヤッコは父のキングカメハメハを始め、母マシュマロ、母の母シラユキヒメ、母の父クロフネとすべてが金子オーナーの馬。白毛馬の血統を確たるものに構築したのはサラブレッドへの愛情の現われに思える。昨年秋のアルゼンチン共和国杯の時も「期待していますよ」と言われていたけれど、まさか8歳でGIIを勝ってくれるとは思わなかった。直線での末脚には私も騎手もびっくりしたなあ。
これほどの大馬主になると、細かなことは競馬に精通した担当者、いわゆる番頭さんに任せているケースが多い。調教師からの連絡事項や相談事を要領よく報告し、オーナーからの要望も的確にこちらに伝えてくれる。例えば体調がよくないから予定のレースを回避するとか、上がり目がなくてそろそろ引退させようかという相談などはなかなか言いづらいのだが、番頭さんがうまくまとめてくれるのだ。