通算勝利数は日本競馬史上10位で現役最多という名伯楽・国枝栄調教師
ところが金子オーナーは、そういう番頭さんを置かなかった。直に報告・連絡して相談するためには、調教師がしっかり馬の状態を把握し、分かりやすく伝える言葉を考えておかなければならない。そういう意味ではとても緊張感があった。
多くの馬主さんはビジネスで成功し、競馬は「道楽」という方が多い。ある意味で遊びだから許されていたこともあったが、厳しさも加味して「事業」にしてきたのが金子オーナーではないかと思う。
たとえばアパパネほどの馬はレースに使わない時期でも放牧に出さず、なるべく厩舎に置いておいてほしいと言われる。調教師の責任で管理してほしいということだ。組織というのは時に責任の所在がわからなくなることがあるが、それを許さない。一代で確固たる大きな組織を作り上げた経営者だからこその考え方なのだろう。
【プロフィール】
国枝栄(くにえだ・さかえ)/1955年岐阜県生まれ。東京農工大学農学部獣医学科卒業後の1978年から美浦・山崎彰義厩舎で調教助手。1989年に調教師免許を取得して1990年に開業、以後優秀調教師賞7回、優秀厩舎賞7回。主な管理馬はほかにブラックホーク、マツリダゴッホ、サークルオブライフ、ステレンボッシュなど。
※週刊ポスト2025年9月12日号