全国の名居酒屋がモデル。酷暑にヒンヤリを呼び込む怪奇と幻想
気温はまだまだ高いけど、そろそろ“読書の秋”に突入してもいい季節。今注目の新刊4冊を紹介します。
『酒亭DARKNESS』恩田陸/文藝春秋/1870円
予約できない店が毎日同じ時間に一席空けておくのは? 命拾いした男が語った幻聴の「お告げ」とは? ちょっとホラーでミステリアスで民俗学っぽい計13編(+α)。冷たいカフェオレと洋酒カステラを食べながら読んでいたら長崎が舞台の「歌うカステラ」という一編が出てきて思わず噴いてしまった。+αの「ムーン・リヴァー」は、複雑な着地に驚く名パズル。お楽しみあれ。
嫌な出来事も笑いの種にして成仏させる。エッセイは「供養」だとする文章の魔力
『〆切は破り方が9割』カレー沢薫/小学館/1760円
このエッセイの中でも一人称が時々「俺」になるので勘違いしそうだが、著者は女性。代表作がこの6月、綾瀬はるか主演でドラマ化されるなど、大注目の漫画家&コラムニストだ。自分が漫画家になったワケ(会社員の才能に欠ける)、漫画家と編集者の“実はゆるい”関係など、自身と漫画界に関する率直すぎる情報開示につい笑ってしまう。この悪魔的文章術にはハマる。
団地は「小さな都市」。社会や家族を語るツールとしてうってつけ(まえがきより)
『世界は団地でできている 映画のなかの集合住宅70年史』団地団(大山顕、佐藤大、速見健朗、稲田豊史、山内マリコ、妹尾朝子)/集英社新書/1089円
団地が舞台の映画や漫画の世界を渉猟する。カネに汚い一家を描く60年代の『しとやかな獣』、主婦の欲望を描いた70年代の“団地妻”、80年代には大友克洋の漫画『童夢』や映画『家族ゲーム』がニューウエーブとして登場し、90年代には(実は)団地が舞台だった『踊る大捜査線 THE MOVIE』が。本書の副題に敗戦後80年、昭和100年と並べるとより視界が広くなるはず。
理想の女子教育というランタンを灯し続けた女性達の星座
『らんたん』柚木麻子/新潮文庫/1210円
志を掲げた女達の明朗さに打たれる。38歳の渡辺ゆりは51歳の一色乕児のプロポーズを快諾しつつも絶対条件を出す。結婚は恩師にして親友の河井道先生との同居生活に乕児が加わる形にしてほしいと。道とゆりは理想の女学校を作り生涯を共にするという夢で結ばれていた。明治・大正・昭和にまたがる大河小説で、苦難も受難もあるが終始明るく幸福。いいもの読みました。
文/温水ゆかり
※女性セブン2025年9月18日号



