凶行に及んだ橋本被告
「ハッシー」の愛称で親しまれた元将棋プロ棋士の橋本崇載被告が2023年7月、元妻であるAさん、その父親であるBさんの2名に対する殺人未遂と住居侵入の疑いで起訴された事件。9月22日より大津地裁にて裁判員裁判の公判が行われ、10月2日に懲役5年(求刑・懲役10年)の判決が言い渡された。
公判では、AさんとBさんによる証言がなされていた。2日目に行われた検察官によるAさんの尋問では、Aさんの記憶に基づく、命の危険を感じた事件の様子が明らかにされた。
続いての弁護側の質問でも、当時の詳細な心理状態を語っていくAさんとBさん。そこでは、橋本被告が抱いていたAさん・Bさんに対する恨みの感情も明らかになった。裁判ライターの普通氏がレポートする。【前後編の後編。前編から読む】
馬乗りになって頭部を攻撃
弁護人の説明によると、Aさんは、Bさんの頭突きによりひるんだ橋本被告から凶器を奪い、押し倒したという。Bさんが馬乗りになっていた状況は検察官からも明らかにされたが、初めはAさんも馬乗り状態であった。Aさんが上半身、Bさんが下半身にまたがった状態で、凶器を奪い取ったBさんが足への打撃を行う。その後、制圧のため頭部に打撃を与えようとしたため、AさんとBさんで場所を変わったという。
弁護人「あなたから『頭を(狙おう)』とか指示はしたんですか?」
Aさん「『足叩いても意味ないやん』とは言ったかもしれない」
弁護人「Bさんが頭叩こうと思うとあなたが邪魔になりますよね」
Aさん「『こっち』とかは言ったかも」
弁護人「あなたから『こっち』と言って頭を叩かせたということでいいですか?」
Aさん「そうだった記憶があります」
攻撃的な印象を抱く内容であるが、命がかかった場面の話だ。弁護人もその点を咎めているわけではない。
頭部への打撲は2~3回だったが、Aさんは過剰防衛になるのではと心配しBさんを止めたという。
弁護人「あなたは被告人に殺されるかもしれないと思ったわけですよね」
Aさん「そうです」
弁護人「その場面で、『これ以上は過剰防衛になるかも』とか冷静に考えたんですか」
Aさん「過剰防衛という言葉が浮かんだのは今だけど、Bが殺人を犯してしまっては困ると思いました」
命を守るためとは言え、その反撃は逆に命を奪いかねないと感じるほどのものだったようだ。橋本被告はその反撃中、「うっ」と声を出すことはあったが、暴れるなどはなく、そのうちに動きは止まっていた。
その後、警察に通報すべく急いで寝室のスマホを持ち、隠れていた子も連れて外に出た。二人とも靴は履いていなかった。少しでも離れたい気持ちもあって、眼鏡もかけず裸眼で車を発進させ、数十メートル先の公園に停車し通報した。
部屋を出て警察に繋がるまで1分半ほどだった。