野津被告と凶器になったクロスボウ(イメージ、AFLO)
2020年6月に兵庫県宝塚市の住宅においてボーガン(クロスボウ)を撃ち、自らの母、祖母、弟の3人を殺害し、家に訪れた叔母1人にも重傷を負わせた野津英滉被告(28)。その裁判員裁判の第2回公判が9月30日、神戸地裁(松田道別裁判長)で開かれた。
「死刑になるために」一家を惨殺したという野津被告。被告人は母・弟・祖母との関係がうまくいかず、家庭環境も荒れていたと弁護人が主張した。なぜ家族を躊躇いなく殺めたのか——本人が法廷でその理由を語った。裁判ライターの普通氏がレポートする。【全3回の第3回。第1回記事から読む】
「自分の苦しみを世間に知ってもらいたい」
弁護側の証拠として、被告人の陳述内容が読み上げられた。これは、被告人が起訴される前に、弁護人に対して話した内容をまとめられたものだ。第2回で報じた内容に継続して、家族に殺意を抱いた経緯が語られた。
弟の暴力が原因で家を出た母が帰ってきたころから、被告人の身体にさらに変化が起きる。頭の回転が遅くなり、脳を使いたいように使えないと感じるようになる。腸の感覚もおかしく、排便したいときにできない、またその逆もあった。
病院でMRIを撮ってもらったが異常はなかった。不調の原因はわからず、考えれば考えるほどストレスになる。日常生活も満足にできず将来を悲観し、死にたくなった。大学を休学し部屋に閉じこもるが、食事をすると家族に会わなければならず、食事も日に1回などになった。
自殺をしようとしたが、それでは家族は原因を顧みようとせず、好きなことを言うんだろうと想像したら苦しくなった。ならば、みんな殺してしまおうと思った。自分の苦しみを世間に知ってもらいたいと考えたのだという。
ストレスの根本は母だが、母を産んだ祖母、そして弟も母の子である意味で同義と思った。一家を殺害することは、自身の責任、使命、宿命などと考えるようになった。すべてを清算して最後に死のうと考えた。
大学の授業で、3人の殺害でも減軽され死刑にならないかもと聞いた。叔母も血のつながる一族として、清算の対象とした。4人殺せば死刑になると思った。