安倍元首相が殺害された銃撃事件で起訴された、山上徹也被告(右・朝日新聞社/時事通信フォト)
10月28日から始まる山上徹也被告の公判。日本の憲政史上最も長く一国の首相を務め、ある意味で最も著名な現役の政治家と言える安倍晋三元首相(享年67歳)が公衆の面前で銃撃され命を落とすという衝撃的な事件の容疑者が、ついに裁かれることになる。
前編記事「」では、弁護側の主張を中心に記した。後編では、検察側が主張すると想定される内容、そして事件の遺族である安倍昭恵氏がどのような意向を持っているのかについて、ジャーナリストで作家の鈴木エイト氏が解説する。【前後編の後編。前編から読む】
反省や謝罪の念は語られるのか
検察の主張を見て行こう。まず検察はこれまでの報道ベースでは、「山上徹也は教団の信者ではなく、統一教会との関係は薄い」として「被告人が追い詰められ自暴自棄になって起こした事件であり、統一教会については事件を正当化するためにあとから持ち出してきたものに過ぎない」といったもののようだ。
検察は山上を厳罰に処すため、計画性、悪質性、被害拡大の危険性、民主主義への脅威などを法廷で展開すると見られている。統一教会の問題、宗教的虐待の影響を斟酌しようとしない姿勢には、検察が事件の枠組み自体を狭めようとしているとさえ感じる。
この事件において、量刑を決める際の論点となりそうな要件をまとめてみた。以下は、この事件の加重要件と想定されるものである。
・被告人が高度な計画性を持ち・周到に準備していた点
・人が密集しているところへ発砲した点
・選挙活動中の要人を殺害した点
・自作銃・爆発物成分を使用した点
・社会不安・萎縮に与える影響の大きさ
・反省や謝罪があるかどうか
・代替手段がある(安倍元首相を殺害する必要があったのか)点
一方、以下は当該事件において想定される情状減軽の要件だ。山上本人の反省や謝罪の有無については現時点で不明のため、両方に入れた。
・被告人の利己性が低く、公益的動機を抱いていた点
・統一教会と自民党との癒着により、被告人の生活が改善される可能性が低かった点
・「他に手段が無い」と誤信してしまった点
・手段やタイミングを含め、第三者への危険を最小化しようとした点
・前科がなく、素行が良好な点
・反省や謝罪があるかどうか
・長期の心理的圧迫・家庭破綻等の背景
前編で言及したように、単独犯で前科もなく、被害者が一人の場合、量刑の“相場”はある程度絞ることができる。一方、被害者が影響の強い人物の人物の場合、量刑が重くなる傾向があるという。
