各地でクマの被害が相次いでいる
現在、熊の出没事件や襲撃事件が日本全国で発生し、多数の犠牲者が出ている。かつては、山間部で熊と出くわし被害にあうケースも多かったが、昨今多くの熊害(ゆうがい)をもたらしているのは、人間の居住域で“エサ”を探す「アーバン熊」である。
熊は本来、必ずしも生存戦略に長けた生物ではないという。実際、世界中の生息地帯では大半の種がレッドリスト入りした絶滅危惧種。ただし、令和の日本をのぞいて……。
日本の熊は“優秀な頭脳”を手に入れ、その結果、個体数は激増。そして人間を襲うようにまでなったという──。市街地に降りてきたアーバン熊の“優秀な頭脳”について、別冊宝島編集部編『アーバン熊の脅威』から、一部抜粋・再構成して紹介する。
【前後編の後編。前編を読む】
弱者ゆえに獲得した“優秀な頭脳”
“弱者”ゆえに、熊は特別な形質を獲得していく。きわめて優秀な頭脳、である。熊の賢さは自転車に乗るといった多彩な芸をこなしてサーカスの人気アニマルとなった点からもわかるだろう。また熊撃ちのマタギやアイヌの猟師の手口を学んで対処することでも知られる。これは生物学的に近いイヌの持つ頭脳を受け継いでいるからだといわれている。
「サーカス熊」が存在するのは熊の知能が高い証拠。犬より賢いとする説もある
とはいえ肉食もする大型哺乳類として熊を見れば、狩りはヘタクソ。死体漁りか狐などの獲物を横取りする。ライバルの大型肉食獣との生存競争には負け続け、食べられるものは何でも食べて飢えをしのぐ、そんな弱者なのだ。過酷な環境でひっそりと生きるしかなく、そこで生き抜くためには頭脳を鍛え上げるしかなかったのだろう。
その特性がイヌを上回る「賢さ」を手に入れる結果へと繋がる。それが「子育て教育」である。実は最も恐ろしい熊の生態とは、この「動物界一の教育ママ」ぶりなのだ。
熊は出産すると短くて2年、通常は3年子育てを行う。その間、生息している過酷な環境で生き抜くための“知恵”を小熊に徹底的に叩き込んでいく。つまり猟師の手口を理解している母熊は、その対処法を小熊にもきちんと伝えるのだ。
ここでアーバン熊に話を戻せば、人里近くを生息域にしたアーバン熊の母熊は「人間」という生物の生態を理解している可能性が高いことがわかる。どこの農地や住宅地が安全なのか、どこにどんな食べ物があるのか。なによりハンターと一般人を見分けて、襲っていい人間と逃げるべき人間を区別できるように、母熊の持つ「対人間の情報」を3年かけて教え込んだ個体が「アーバン熊」へと進化したのだ。

