『雪柳狗子図』 安永7年(1778) 仔犬は応挙が数多く描いたモチーフ。雪には肉球の愛らしい足跡も。樹木の描写へ『雪松図屏風』に通じる画技が施されている

『雪柳狗子図』 安永7年(1778) 仔犬は応挙が数多く描いたモチーフ。雪には肉球の愛らしい足跡も。樹木の描写へ『雪松図屏風』に通じる画技が施されている

発見された若冲と応挙「世紀の合作」

山下:先ほど、辻先生が若冲と応挙との合作に言及されました。この合作屏風は昨秋に発見されて大ニュースになった作品で、今回の展示でも鑑賞することができます。

辻:素晴らしい発見に興奮して実物と対面しました。同時代の京都画壇で活躍した2人の直接的な繋がりを示す文献は、ほとんどない。それまでは金刀比羅宮の表書院に応挙の障壁画、奥書院に若冲の障壁画が遺された接点はあったものの、作品での接点はこの合作が初であり、唯一。非常に重要な発見という衝撃をもって大々的に報じられたのです。

 左隻に若冲『竹鶏図屏風』、右隻に応挙『梅鯉図屏風』の二曲一双は同じ形式で、落款も若冲は左上、応挙は右下と、呼応するような位置にあります。

山下:鶏は若冲、鯉は応挙が最も得意とした画題です。発注者は不明ですが、金屏風を仕立て、京都画壇でナンバー1、2の応挙と若冲に、画題を指定して依頼したのではと推測されます。

辻:応挙は鯉の向きにしても梅の枝ぶりにしても、視線を左側へと誘導している。17歳年上の若冲への尊敬の念でしょう。

 若冲はざっくり描いているようで鶏の脚など細部まで丹念に描き、尾羽の翻りには力がこもっている。人気ナンバー1の応挙に対する「負けてたまるか」という意気込みが感じられます。両者がその技を競い合った見事なコントラストです。

山下:互いに認め合っていたに違いないですね。

 応挙に若冲。正統派と奇想派の両方があるハイブリッドさが日本美術の面白さ、魅力だと思います。

辻:『奇想の系譜』のあとがきで奇想を《〈主流〉の中での前衛》と書きましたが、両者は対立しているわけではない。奇想派へ傾いた評価を相対化して、正統派と共に味わいたいですね。

取材・文/渡部美也 撮影/太田真三

【プロフィール】
辻惟雄(つじ・のぶお)/1932年生まれ。美術史家。著書に『奇想の系譜』(美術出版社)、『若冲が待っていた』(小学館)、『辻惟雄 最後に、絵を語る。』(集英社)など。令和7年度文化勲章受章。

山下裕二(やました・ゆうじ)/1958年生まれ。美術史家。明治学院大学教授。『日本美術全集』(全20巻、小学館)監修を務める。日本美術応援団団長。

※週刊ポスト2025年11月21日号

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