芸能

『ぼくたちん家』ついにLGBTのラブストーリーがプライム帯に進出 BLとの違いは? なぜ他の恋愛ドラマより量産される? 

日曜ドラマ『ぼくたちん家』(公式インスタグラムより)

日曜ドラマ『ぼくたちん家』(公式インスタグラムより)

 ドラマでLGBTを題材にするケースが増えてきたが、その描き方がここ数年でさまがわりしている。BL作品とはどこが違うのか? そして他の恋愛ドラマよりも近年、量産されている理由についてコラムニストでテレビ解説者の木村隆志さんが解説する。 

* * * 

「豪華キャストと実績十分のスタッフがそろった」と言われる秋ドラマの中で、異彩を放っているのが『ぼくたちん家』(日本テレビ系、日曜夜22時30分)。 

 同作は心優しきゲイの波多野玄一(及川光博)が、一見クールなゲイの中学教師・作田索(手越祐也)に恋をし、共同名義で家を買うことを提案。そんな2人の前に「3000万円で親を買いたい」という楠ほたる(白鳥玉季)が現われ、3人での共同生活を送る様子が描かれています。 

 番組ホームページに掲げたコンセプトは、「笑って、泣いて、笑っちゃう、奇妙なホーム&ラブコメディ」。主にLGBTの恋愛と新たな家族の形にスポットを当てた作品です。 

 特筆すべきは、LGBTのラブストーリーがついにプライム帯(19~23時)に進出したこと。これまで深夜帯(23時~)が主戦場であり、近年は量産されていたLGBTのラブストーリーが視聴者数の多いプライム帯で主要作として放送されていることに変化を感じさせられます。 

 はたして『ぼくたちん家』はどんな作品で、LGBTのラブストーリーにはどんな変化が見られるのでしょうか。 

「BL作品」から「LGBTの恋愛」に 

 今秋、LGBTの恋愛を扱った作品は『ぼくたちん家』だけでなく、『25時、赤坂で Season2』(テレビ東京系、水曜25時)、『PUNKS△TRIANGLE<パンクス・トライアングル>』(フジテレビ系、木曜25時15分)、『修学旅行で仲良くないグループに入りました』(ABC、土曜25時)、『おいしい離婚届けます』(中京テレビ・日本テレビ系、水曜24時24分)が放送されています。 

 さらに前クールでも『40までにしたい10のこと』(テレビ東京系)、『雨上がりの僕らについて』(テレビ東京系)などを放送。「一年中、いくつかのLGBTのラブストーリーが放送されている」という状態が続いています。 

 過去を振り返ると、かつては1993年に放送された『同窓会』(日本テレビ系)というドラマもありましたが、LGBTのラブストーリーが本格的に増えたのは、やはり2018年の『おっさんずラブ』(テレビ朝日系)以降。 

 同年の『ポルノグラファー』(フジテレビ系)、2019年の『きのう何食べた?』(テレビ東京系)、2020年の『30歳まで童貞だと魔法使いになれるらしい』(テレビ東京系)、2021年の『美しい彼』(MBS)、2022年の『みなと商事コインランドリー』(テレビ東京系)、2023年の『君には届かない。』(TBS系)、2024年の『ひだまりが聴こえる』(テレビ東京系)など、年を追うごとに定番コンテンツとなっていきました。 

『おっさんずラブ』以降のこれらはすべて深夜帯の放送であり、「好きな人に強く訴求する」というタイプのプロデュース作品。当初は腐女子向けに美男を揃えたBL作品として制作され、視聴率以上に配信再生数を稼いだほか、映画化などの派生ビジネスも視野に入れた戦略を採っていました。 

 それが徐々に幅広い女性層に向けた作風にも広がり、さらに男性層もターゲットに入れたものも増えるなど、BL作品というよりLGBTのラブストーリーというニュアンスに変化。一定の大衆化を果たしたことで放送時間が深夜25~26時台から23時台に繰り上がり、今秋の『ぼくたちん家』ではプライム帯に進出したという流れがあります。 

どこにでもあるリアルな恋の1つ 

 かつてドラマにおけるLGBTは主に「他の人とは違う価値観を持ち、だから多くの人々の問題を解決し、危機を救うこともできる」という特別な存在として描かれてきました。しかし、2010年代後半からはどこにでもいる人として描く作品が増え、LGBTの恋愛も特別視せずに扱われるように変わっています。 

 実際、『ぼくたちん家』の波多野玄一は動植物園の職員、作田索は中学教師であり、その言動が周囲の人々から浮いてしまうところはありません。しかも2人は50歳と38歳という中年世代であり、美男同士のフィクションのようなBLではなく、どこにでもいそうな男性のリアルな恋として描かれています。 

 NHKは2018年の『女子的生活』と『弟の夫』、2020年の『三浦部長、本日付けで女性になります。』、2022年の『恋せぬふたり』と『プリズム』、2022年と2024年の『作りたい女と食べたい女』など、LGBTを扱った数多くのドラマをプライム帯で放送してきました。 

 一方、民放各局は視聴率獲得という点で不安があるため、LGBTのラブストーリーは深夜帯限定のコンテンツとして制作・放送。『おっさんずラブ』が社会現象のようになり、続編が制作されても、そのスタンスは変わりませんでした。 

 だからこそ今秋の『ぼくたちん家』には、「ついに時代が変わった」という世間の変化を感じさせられます。他局以上に視聴率獲得にシビアでマーケティングに長けた日本テレビが制作したことから、今後は他局も追随していくのではないでしょうか。 

関連キーワード

関連記事

トピックス

オールスターゲーム前のレッドカーペットに大谷翔平とともに登場。夫・翔平の横で際立つ特注ドレス(2025年7月15日)。写真=AP/アフロ
大谷真美子さん、米国生活2年目で洗練されたファッションセンス 眉毛サロン通いも? 高級ブランドの特注ドレスからファストファッションのジャケットまで着こなし【スタイリストが分析】
週刊ポスト
公金還流疑惑がさらに発覚(藤田文武・日本維新の会共同代表/時事通信フォト)
《新たな公金還流疑惑》「維新の会」大阪市議のデザイン会社に藤田文武・共同代表ら議員が総額984万円発注 藤田氏側は「適法だが今後は発注しない」と回答
週刊ポスト
“反日暴言ネット投稿”で注目を集める中国駐大阪総領事
「汚い首は斬ってやる」発言の中国総領事のSNS暴言癖 かつては民主化運動にも参加したリベラル派が40代でタカ派の戦狼外交官に転向 “柔軟な外交官”の評判も
週刊ポスト
黒島結菜(事務所HPより)
《いまだ続く朝ドラの影響》黒島結菜、3年ぶりドラマ復帰 苦境に立たされる今、求められる『ちむどんどん』のイメージ払拭と演技の課題 
NEWSポストセブン
初代優勝者がつくったカクテル『鳳鳴(ほうめい)』。SUNTORY WORLD WHISKY「碧Ao」(右)をベースに日本の春を象徴する桜を使用したリキュール「KANADE〈奏〉桜」などが使われている
《“バーテンダーNo.1”が決まる》『サントリー ザ・バーテンダーアワード2025』に込められた未来へ続く「洋酒文化伝承」にかける思い
NEWSポストセブン
公職上の不正行為および別の刑務所へ非合法の薬物を持ち込んだ罪で有罪評決を受けたイザベル・デール被告(23)(Facebookより)
「私だけを欲しがってるの知ってる」「ammaazzzeeeingggggg」英・囚人2名と“コッソリ関係”した美人刑務官(23)が有罪、監獄で繰り広げられた“愛憎劇”【全英がザワついた事件に決着】
NEWSポストセブン
立花孝志容疑者(左)と斎藤元彦・兵庫県知事(写真/共同通信社)
【N党党首・立花孝志容疑者が逮捕】斎藤元彦・兵庫県知事“2馬力選挙”の責任の行方は? PR会社は嫌疑不十分で不起訴 「県議会が追及に動くのは難しい」の見方も
週刊ポスト
超音波スカルプケアデバイスの「ソノリプロ」。強気の「90日間返金保証」の秘密とは──
超音波スカルプケアデバイス「ソノリプロ」開発者が明かす強気の「90日間全額返金保証」をつけられる理由とは《頭皮の気になる部分をケア》
NEWSポストセブン
三田寛子(時事通信フォト)
「あの嫁は何なんだ」「坊っちゃんが可哀想」三田寛子が過ごした苦労続きの新婚時代…新妻・能條愛未を“全力サポート”する理由
NEWSポストセブン
大相撲九州場所
九州場所「17年連続15日皆勤」の溜席の博多美人はなぜ通い続けられるのか 身支度は大変だが「江戸時代にタイムトリップしているような気持ちになれる」と語る
NEWSポストセブン
一般女性との不倫が報じられた中村芝翫
《芝翫と愛人の半同棲にモヤモヤ》中村橋之助、婚約発表のウラで周囲に相談していた「父の不倫状況」…関係者が明かした「現在」とは
NEWSポストセブン
「週刊ポスト」本日発売! 高市首相「12.26靖国電撃参拝」極秘プランほか
「週刊ポスト」本日発売! 高市首相「12.26靖国電撃参拝」極秘プランほか
NEWSポストセブン