日曜ドラマ『ぼくたちん家』(公式インスタグラムより)
ドラマでLGBTを題材にするケースが増えてきたが、その描き方がここ数年でさまがわりしている。BL作品とはどこが違うのか? そして他の恋愛ドラマよりも近年、量産されている理由についてコラムニストでテレビ解説者の木村隆志さんが解説する。
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「豪華キャストと実績十分のスタッフがそろった」と言われる秋ドラマの中で、異彩を放っているのが『ぼくたちん家』(日本テレビ系、日曜夜22時30分)。
同作は心優しきゲイの波多野玄一(及川光博)が、一見クールなゲイの中学教師・作田索(手越祐也)に恋をし、共同名義で家を買うことを提案。そんな2人の前に「3000万円で親を買いたい」という楠ほたる(白鳥玉季)が現われ、3人での共同生活を送る様子が描かれています。
番組ホームページに掲げたコンセプトは、「笑って、泣いて、笑っちゃう、奇妙なホーム&ラブコメディ」。主にLGBTの恋愛と新たな家族の形にスポットを当てた作品です。
特筆すべきは、LGBTのラブストーリーがついにプライム帯(19~23時)に進出したこと。これまで深夜帯(23時~)が主戦場であり、近年は量産されていたLGBTのラブストーリーが視聴者数の多いプライム帯で主要作として放送されていることに変化を感じさせられます。
はたして『ぼくたちん家』はどんな作品で、LGBTのラブストーリーにはどんな変化が見られるのでしょうか。
「BL作品」から「LGBTの恋愛」に
今秋、LGBTの恋愛を扱った作品は『ぼくたちん家』だけでなく、『25時、赤坂で Season2』(テレビ東京系、水曜25時)、『PUNKS△TRIANGLE<パンクス・トライアングル>』(フジテレビ系、木曜25時15分)、『修学旅行で仲良くないグループに入りました』(ABC、土曜25時)、『おいしい離婚届けます』(中京テレビ・日本テレビ系、水曜24時24分)が放送されています。
さらに前クールでも『40までにしたい10のこと』(テレビ東京系)、『雨上がりの僕らについて』(テレビ東京系)などを放送。「一年中、いくつかのLGBTのラブストーリーが放送されている」という状態が続いています。
過去を振り返ると、かつては1993年に放送された『同窓会』(日本テレビ系)というドラマもありましたが、LGBTのラブストーリーが本格的に増えたのは、やはり2018年の『おっさんずラブ』(テレビ朝日系)以降。
同年の『ポルノグラファー』(フジテレビ系)、2019年の『きのう何食べた?』(テレビ東京系)、2020年の『30歳まで童貞だと魔法使いになれるらしい』(テレビ東京系)、2021年の『美しい彼』(MBS)、2022年の『みなと商事コインランドリー』(テレビ東京系)、2023年の『君には届かない。』(TBS系)、2024年の『ひだまりが聴こえる』(テレビ東京系)など、年を追うごとに定番コンテンツとなっていきました。
『おっさんずラブ』以降のこれらはすべて深夜帯の放送であり、「好きな人に強く訴求する」というタイプのプロデュース作品。当初は腐女子向けに美男を揃えたBL作品として制作され、視聴率以上に配信再生数を稼いだほか、映画化などの派生ビジネスも視野に入れた戦略を採っていました。
それが徐々に幅広い女性層に向けた作風にも広がり、さらに男性層もターゲットに入れたものも増えるなど、BL作品というよりLGBTのラブストーリーというニュアンスに変化。一定の大衆化を果たしたことで放送時間が深夜25~26時台から23時台に繰り上がり、今秋の『ぼくたちん家』ではプライム帯に進出したという流れがあります。
どこにでもあるリアルな恋の1つ
かつてドラマにおけるLGBTは主に「他の人とは違う価値観を持ち、だから多くの人々の問題を解決し、危機を救うこともできる」という特別な存在として描かれてきました。しかし、2010年代後半からはどこにでもいる人として描く作品が増え、LGBTの恋愛も特別視せずに扱われるように変わっています。
実際、『ぼくたちん家』の波多野玄一は動植物園の職員、作田索は中学教師であり、その言動が周囲の人々から浮いてしまうところはありません。しかも2人は50歳と38歳という中年世代であり、美男同士のフィクションのようなBLではなく、どこにでもいそうな男性のリアルな恋として描かれています。
NHKは2018年の『女子的生活』と『弟の夫』、2020年の『三浦部長、本日付けで女性になります。』、2022年の『恋せぬふたり』と『プリズム』、2022年と2024年の『作りたい女と食べたい女』など、LGBTを扱った数多くのドラマをプライム帯で放送してきました。
一方、民放各局は視聴率獲得という点で不安があるため、LGBTのラブストーリーは深夜帯限定のコンテンツとして制作・放送。『おっさんずラブ』が社会現象のようになり、続編が制作されても、そのスタンスは変わりませんでした。
だからこそ今秋の『ぼくたちん家』には、「ついに時代が変わった」という世間の変化を感じさせられます。他局以上に視聴率獲得にシビアでマーケティングに長けた日本テレビが制作したことから、今後は他局も追随していくのではないでしょうか。
