PTSDを乗り越えた渡邊渚さんが綴る「ひたむきに刺し子」の効果とは(撮影/松田忠雄)
頭も身体“今”に意識を向けるようになった
刺し子製作のどんなところに、私は取り憑かれているのか、整理すると3つある。1つ目が、集中力が増して時間を忘れられ、余計なことを考えなくなる。ついでに刺し子に充てる時間欲しさにスマホを持つ時間が短くなって、自然とデジタルデトックスになったという利点もあった。日々大量に流れてくるどうでもいい情報をカットできて、余計なストレスがなくなった。
2つ目は、目に見える形で完成するから、達成感を感じやすいところ。特に私はPTSDになってから手の震えが激しかったから、今こうしてちゃんと細かい作業ができるまでに戻ってきたことが嬉しくてたまらない。私はちゃんと成長してると実感できて、できるようになった自分を純粋に褒められるようになった。
3つ目は刺し子だからこそ私にもたらした影響。同じ幅で同じ模様を繰り返し縫い続けることで、頭も身体も“今”に意識を向けるようになったということだ。
正直1つ目と2つ目はフランス刺繍でもボトルシップでも満たされていたのだが、刺し子の特徴である一定のリズムで同じことを繰り返す作業は、先のことを考えたり計画したりしなくていいから、今の一刺し一刺しに集中できるのだ。
一見単調にも思えるが、刺し子をしている時間は過去や未来の不安を和らげられて、嫌な気持ちを忘れられた。
「今この瞬間を感じる」――私がこの2年以上、精神科の主治医の先生に言われ続けていたこの言葉を、やっと私は理解できた気がする。これこそが、きっと、マインドフルネスや瞑想に近い感覚なのだろう。
最近の小さな目標は、こぎん刺しなど東北各地の刺し子の技法をマスターすること。それが終わったら、刺繍で世界一周、歴史探索にでかけたいと思う。
そして、いずれは、自分の子どもの幼稚園バッグや体操着袋を、オリジナルのデザインの刺繍を入れて製作したい。私の母がそうしてくれたように、私にもそんな日が、いつか、きたらいいなと思う。
そんな日が来るまでは、頑張って生きてみようと、今はほんの少し未来をポジティブにとらえられる。
でもその前に結婚相手を見つけなきゃいけないし、子どもを産まなければいけないという特大ミッションが…..!! 刺繍を製作するより、数千倍大変だ笑笑
とりあえず、今は未来に向けて、一刺し一刺し、“ひたむきに刺し子”を続けてみようと思う。
【プロフィール】
渡邊渚(わたなべ・なぎさ)/1997年生まれ、新潟県出身。2020年に慶大卒業後、フジテレビ入社。『めざましテレビ』『もしもツアーズ』など人気番組を担当するも、2023年に体調不良で休業。2024年8月末で同局を退社した。今後はフリーで活動していく。1月29日に初のフォトエッセイ『透明を満たす』を発売。6月には写真集『水平線』(集英社刊)も発売。渡邊渚アナの連載エッセイ「ひたむきに咲く」は「NEWSポストセブン」より好評配信中。
