ライフ

【逆説の日本史】「余談」を語ることで歴史を立体的に見ることの重要さ

作家の井沢元彦氏による『逆説の日本史』

作家の井沢元彦氏による『逆説の日本史』

 ウソと誤解に満ちた「通説」を正す、作家の井沢元彦氏による週刊ポスト連載『逆説の日本史』。今回は近現代編第十六話「大日本帝国の理想と苦悩」、「大正デモクラシーの確立と展開 その7」をお届けする(第1472回)。

 * * *
 前回までの数回で、一九五五年(昭和30)における大韓民国初代大統領・李承晩の行動について述べた。それは、一九一九年(大正8)に日本併合下の朝鮮半島で起こった「三・一独立運動」の評価について、それを扇動した「在外朝鮮人(当時)」の代表でもあった李承晩の性格分析が必要だったからであって、決して「余談」をしたわけでは無い。

 しかし、今回はあえて余談をしたい。なぜなら、歴史というものの奥深さを知るためには、それが必要だからだ。この稿を書いているちょうどいま、第一〇四代内閣総理大臣に高市早苗・前経済安全保障相が選出された。日本憲政史上初の女性総理大臣の誕生である。つまり二〇二五年(令和7)十月二十一日は、日本の歴史上「後世に記憶される日」になったわけだが、その自民党を中心とした日本の政界には「四十、五十は鼻タレ小僧」という格言(?)があったことをご存じだろうか。

 最近はどこの国でも若いリーダーがもてはやされ、高齢の政治家は「老害」などと言われてしまうのでこの言葉も囁かれることは少なくなったが、それでも中高年の人間には納得のいく言葉ではないだろうか。

 たしかに、人間は年を重ねるほど人間界の複雑な中身というものがわかってくる。あえて差別語を使えば、「若僧にはわからない世界」である。前にも述べたことがあるが、学問の世界では若い研究者が主導権を握るケースが多い。とくに理系、たとえば数学や物理の分野ではノーベル賞級の功績はしばしば若い研究者によって築かれる。これはやはり若いほうが頭脳の働きも俊敏で、柔軟だからだろう。

 ところが、これが唯一あてはまらないのが文科系の歴史や文学に関する部門だ。もちろん若くて柔軟な頭脳は、それまで見落とされていた新しい視点に気がつくことなどで歴史学の発展に貢献はできる。だが、ちょっと考えていただきたい。いかに優秀でも、書斎や研究室にこもってナマの人間とは違う史料だけとつき合い、人づき合いが苦手だなどという若い研究者が本当の歴史の機微というものをつかめるだろうか?

「四十、五十は鼻タレ小僧」なら「人間、六十から一人前」ということになるが、日本の大学や研究機関ではその年齢を過ぎるとすぐに定年になって追い出されてしまう。つまり、それ以降の人生で実感した「人間社会の機微」を、学問の成果に生かすことは難しくなる。結果的に歴史研究とは「ナマの刺身」では無く、「乾燥食品」についての研究になってしまう。

 しかし私は幸いにも、専門という形で研究する時代が限定されることも無いし、また定年という形で現役引退を強いられることも無い。歴史学者では無い民間の自由な歴史家だからだ。それゆえ前回述べたように一九一九年の「三・一独立運動」の評価について、一九五五年以降まで踏まえた巨視的な評価ができる。

 そして、今回は余談を語ることによって歴史を立体的に見る、歴史学者には不可能な方法で歴史全体を見る方法について語ろう。ただし、これは冒頭にお断りしたとおり本題の一九一九年前後の歴史とはとりあえず関連は無い。だから、本当の余談なのである。

関連キーワード

関連記事

トピックス

大谷翔平と真美子さん(時事通信フォト)
《自宅でしっぽりオフシーズン》大谷翔平と真美子さんが愛する“ケータリング寿司” 世界的シェフに見出す理想の夫婦像
NEWSポストセブン
裁判所に移されたボニー(時事通信フォト)
《裁判所で不敵な笑みを浮かべて…》性的コンテンツ撮影の疑いで拘束された英・金髪美女インフルエンサー(26)が“国外追放”寸前の状態に
NEWSポストセブン
山上徹也被告が法廷で語った“複雑な心境”とは
「迷惑になるので…」山上徹也被告が事件の直前「自民党と維新の議員」に期日前投票していた理由…語られた安倍元首相への“複雑な感情”【銃撃事件公判】
NEWSポストセブン
アメリカの人気女優ジェナ・オルテガ(23)(時事通信フォト)
「幼い頃の自分が汚された画像が…」「勝手に広告として使われた」 米・人気女優が被害に遭った“ディープフェイク騒動”《「AIやで、きもすぎ」あいみょんも被害に苦言》
NEWSポストセブン
お騒がせインフルエンサーのボニー・ブルー(時事通信フォト)
《潤滑ジェルや避妊具が押収されて…》バリ島で現地警察に拘束された英・金髪美女インフルエンサー(26) 撮影スタジオでは19歳の若者らも一緒だった
NEWSポストセブン
山上徹也被告が語った「安倍首相への思い」とは
「深く考えないようにしていた」山上徹也被告が「安倍元首相を支持」していた理由…法廷で語られた「政治スタンスと本音」【銃撃事件公判】
NEWSポストセブン
不同意性交と住居侵入の疑いでカンボジア国籍の土木作業員、パット・トラ容疑者(24)が逮捕された(写真はサンプルです)
《クローゼットに潜んで面識ない50代女性に…》不同意性交で逮捕されたカンボジア人の同僚が語る「7人で暮らしていたけど彼だけ彼女がいなかった」【東京・あきる野】
NEWSポストセブン
TikTokをはじめとしたSNSで生まれた「横揺れダンス」が流行中(TikTokより/右の写真はサンプルです)
「『外でやるな』と怒ったらマンションでドタバタ…」“横揺れダンス”ブームに小学校教員と保護者が本音《ピチピチパンツで飛び跳ねる》
NEWSポストセブン
遠藤敬・維新国対委員長に公金還流疑惑(時事通信フォト)
公設秘書給与ピンハネ疑惑の維新・遠藤敬首相補佐官に“新たな疑惑” 秘書の実家の飲食店で「政治資金会食」、高額な上納寄附の“ご褒美”か
週刊ポスト
山本由伸選手とモデルのNiki(Instagramより)
「球場では見かけなかった…」山本由伸と“熱愛説”のモデル・Niki、バースデーの席にうつりこんだ“別のスポーツ”の存在【インスタでは圧巻の美脚を披露】
NEWSポストセブン
モンゴル訪問時の写真をご覧になる天皇皇后両陛下(写真/宮内庁提供 ) 
【祝・62才】皇后・雅子さま、幸せあふれる誕生日 ご家族と愛犬が揃った記念写真ほか、気品に満ちたお姿で振り返るバースデー 
女性セブン
村上迦楼羅容疑者(27)のルーツは地元の不良グループだった(読者提供/本人SNS)
《型落ちレクサスと中古ブランドを自慢》トクリュウ指示役・村上迦楼羅(かるら)容疑者の悪事のルーツは「改造バイクに万引き、未成年飲酒…十数人の不良グループ」
NEWSポストセブン