今年6月に行われたソウル中心部でのデモの様子(共同通信社)
韓国で「中国人排斥」を訴えるヘイトスピーチが急増し、大きな社会問題になっている。特に中国大使館がある明洞(ミョンドン)近辺では、右翼系団体の若者らが「China Out!(中国は出て行け)」と書かれたプラカードを掲げ、週末ごとに数百人規模で行進を繰り返している。【前後編の後編。前編から読む】
こうしたデモを政府も徐々に問題視するようになっており、外国人への差別や観光客への影響を理由に“違法または許容できない集会”として警鐘を鳴らしている。
実は、韓国における反中感情は突発的に生まれたものではなく、長年の歴史的・社会的要因の積み重ねによって形成されてきたものだ。
「大きな転換点として挙げられるのが2016年のTHAAD(高高度防衛ミサイル)配備問題。韓国が在韓米軍のミサイル防衛システム配備を決定した際、中国政府は猛反発し、韓国への経済報復措置を取った。
これは通称、『限韓令(禁韓令)』と呼ばれ、中国当局は韓国企業に対する営業停止や安全検査の名目で圧力をかけたり、中国人団体旅行客の韓国訪問を禁止するなどの措置を次々と発動した。現在では『大規模なK-POPライブ』もその対象になっています」(在韓ジャーナリスト)
これにより韓国の自動車・観光・流通業界などは大打撃を受け、韓国国民の間には「中国は気に入らないことがあると経済的報復も辞さない威圧的な大国だ」という認識が広まった。
なかでも若い世代における反中感情は、実生活に根差した“嫌悪感”として表出しているのが特徴だ。
「彼らは中国との経済協力が盛んだった1990~2000年代の“蜜月時代”を体験しておらず、中国に対してプラスの印象をもつ機会がなかった。むしろ物心ついた頃から、中国は大気汚染の元凶、観光地でマナーの悪い旅行客、大衆文化を剽窃するライバル、といったネガティブな印象ばかりが刷り込まれてきたと『東アジア研究院』院長のソン・ヨル氏も指摘しています」(同前)
実際の世論調査でも、中国に対する好感度はこの10年で急落した。前述の「東アジア研究院」の調査では「中国が嫌い」と答えた韓国人は2015年に16%だったのが、2025年には71%に上昇したとのデータもある。
