被害を受けたジュフリー氏、エプスタイン元被告(時事通信フォト、司法省(DOJ)より)

被害を受けたジュフリー氏、エプスタイン元被告(時事通信フォト、司法省(DOJ)より)

心理学者はどう見るか

 専門家の間では、この写真が与える不気味さは、単に「不適切だから」ではないと指摘されている。心理学の専門家の一人はこう語る。

「人の身体、とくに女性の身体に文学作品の引用文を書くという行為は、身体を人格としてではなく、鑑賞や所有の対象、つまり“モノ”へと変換する行為です。心理学的には、これは objectification(客体化)や depersonalization(非人格化)の典型です。性的搾取の文脈では、この人格の剥奪が加害を正当化する第一段階になります」

 さらに『ロリータ』という作品選択について、こう続ける。

「『ロリータ』は単なる恋愛小説ではありません。語り手が少女への性的欲望を、言語の美しさによって合理化し、詩化する物語です。心理学者の間では、加害者の内的独白を知的に洗練させたテキストと位置づけられることもあります。引用は、幼さや無垢さ、言葉によって包み込まれる性的支配を象徴的に重ね合わせています」

 引用文が一文として完結せず、身体の各部位に分断されて書かれている点についても、次のように説明する。

「これは fragmentation(断片化)と呼ばれ、人格の統合を壊し、身体を部分の集合として扱う構造です。性的支配や暴力的関係で頻繁に見られます」

 未成年者への性的搾取を直接示す証拠かどうかについては慎重な見方が必要だという。

「この写真単体が、未成年者への犯罪を直接証明するとは言えません。しかし心理的・象徴的には強く連結しています。未成年者搾取に特有の心理構造と、この写真の構造が、驚くほど一致しているのです。

 これは性欲そのものではありません。支配欲と物語化の結合です。性的興奮、知的優越感、支配、秘密の共有を一体化させた行為なのです」

 人々がこの写真に抱く嫌悪は、単なる道徳的反射ではない。それは、「越えてはならない線を、言葉と知性によって静かに越えている構造」を、直感的に感じ取っているからではないだろうか。

◆高濱賛(在米ジャーナリスト)

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