東出昌大(ひがしで・まさひろ)/1988年生まれ、埼玉県出身。俳優。2012年、俳優デビュー。現在は北関東の山間部で狩猟生活をしながら役者業をしている
「地震や台風と同じ」
東出:話が戻りますけど、自衛隊派遣の決定に関しては、どうだったんですかね。災害、災害っていうけど、数だけでいったら全国の死者は13人ですよ。史上最多とは言いますけど、大きな災害で何十人という人が一気になくなるのとは規模が違う。メディアも周りもうるさいから、何かやらないと叩かれると思ってやっただけなんじゃないですか。
服部:現代人は自然すらも思い通りにできると思ってるからな。地震やコロナでどうしようもないものだとわかったはずなのに、もう忘れてる。俺らは自然が身近にあるし、猟もしているから、自然ってのは命に無関心だし、人間の都合では動いてくれないということもわかってる。
でも、今の人たちは人間も生態系の一部だという意識すらもないだろ。生態系ならぬ「人間系」だけで生きていると思ってる。実際、人間の生活圏だけで暮らしが成立していると錯覚してしまうような社会になってしまったからな。スーパーに行けば食い物は何でも手に入るし。
東出:現代社会があまりにも安全・安心になってしまったから、死の実感が薄れ、残酷な存在を求めている気もしますよね。怖がることを楽しんでいるというか。だって、クマの残忍性をこれでもかというほどクローズアップするじゃないですか。交通事故だって、むごい事故はいくらでもあるのに。
そういう意図的に不安になりたいという大衆心理がクマ問題の根本にあるんじゃないですか。世の中が安心・安全に偏りすぎたがゆえに。私が住む地域の町内放送で、どこどこの畑にクマの糞らしきものがあったので外出を控えましょう、というアナウンスを流していたんです。たかだか糞ですよ。目撃したわけでもないのに。人間自ら行動の自由を放棄している。なんて愚かなんだろうと思ってしまいましたね。
服部:お役所っぽいけどな。何かあったときに責任を問われるのが怖いんだろ。誤解を生む言い方かもしれないけど、人も自然の中で生きている以上、クマとの接触で何人か死んでしまうのはしょがないと思うしかないな。地震や台風と同じだろ。狩猟をしていると、人が食われるかもしれないという環境に身を置いている方が命のあり方としては正しいと思えてくるんだよな。死んだ人には悪いけど、クマに襲われて死ぬのは死に方としては相当良い死に方だと思う。大自然に吸収される感覚というか。少なくとも、車にひかれて死ぬよりよっぽど正しいだろ。
東出:轢死の方が嫌ですよね。
服部:嫌。俺、車嫌いだし。クマに襲われた瞬間は、怖いと思うだろうけどな。抵抗もするだろうし。でも、それは別問題だから。そういうこと言うと、自分の子どもがそうなったとしても同じことが言えるのかって返されるんだけど。そうなったら、そりゃ悲しむだろうし、もしかしたら最初はそう言えないかもしれない。けど、時間が経ったら、自分の子どもであってもしょうがないなと思うだろうな。これが自然だ、って。
東出:それは僕もそうですね。自然って、そういうもんですよね。
【プロフィール】
服部文祥(はっとり・ぶんしょう)/1969年生まれ、神奈川県出身。登山家・著述家。K2登頂などを経験した後、装備を切り詰め食糧を現地調達するサバイバル登山家に。新刊『本当の登山の話をしよう』(デコ)が1月26日発売予定
東出昌大(ひがしで・まさひろ)/1988年生まれ、埼玉県出身。俳優。2012年、俳優デビュー。現在は北関東の山間部で狩猟生活をしながら役者業をしている。直近の出演作は『イクサガミ』(Netflix)
取材・文/中村計(ノンフィクションライター) 撮影/二神慎之介
※週刊ポスト2026年1月16・23日号
