広済堂ホールディングスのトップに立った中国人実業家の羅怡文氏(時事通信フォト)
多死社会が到来するなか、火葬の在り方に変化が起きている。都内で火葬場を運営する民間企業「東京博善」は都内の火葬ビジネス市場をほぼ独占し、近年は止まらない価格高騰についての批判も上がっている。
1887年創業という長い歴史を持つ東京博善。設立したのは、「明治の政商」だった木村荘平だ。木村の没後、東京博善は迷走する。昭和末期には、田中角栄元首相の「刎頚の友」といわれ、荒々しく狡猾なビジネスを展開する国際興業の小佐野賢治の手に渡った。
現在、親会社である広済堂ホールディングスのトップに立っているのは、中国人実業家・羅怡文だ。羅が経営権を手にした背景には何があったのか。
『火葬秘史 骨になるまで』(小学館)を上梓したジャーナリストの伊藤博敏氏が火葬ビジネスの裏面史を明かす(一部敬称略)。【全3回の第2回】
『おくりびと』の影響も
日本には仏教伝来前の古代から神道を起源として死を「ケガレ」とする概念があった。仏教にケガレの概念はないが、布教過程で神道を取り込んだため、ケガレへの忌避は取り除けなかった。その有史以来といっていい日本の死穢観は、職業差別にもつながった。
火葬場の従事者も「死にまつわる仕事」という連想から差別の対象となり、火葬場は長く「好まれない施設」として小佐野や櫻井といった怪商以外、容易には手が出せなかった。
だが、法に基づく教育や啓発によって差別をめぐる環境が変化し、21世紀に入ってから日本人の意識も変わってきた。
そうした変化には2008年公開の映画『おくりびと』も影響している。葬儀の際、遺体を整えて棺に納める「納棺師」を描いた同作は日本アカデミー賞の13部門で優秀賞を受賞し、死にまつわる職業への意識を変え、誇りをもって取り組むことができる職業へと認識を改めさせた。差別意識の解消は「嫌われる施設」である火葬場で働く職員にも及んだ。
そして資本市場から遠く離れた存在だった火葬場はアンタッチャブルではなくなり、急に市場でも売買対象として浮上することになった。
きっかけは、当時の廣済堂(現・広済堂HD)に対し、米投資ファンドのベインキャピタルが2019年にTOB(株式公開買い付け)を仕掛けたことだった。ベインの日本代表・杉本勇次は日本長期信用銀行を購入した米リップルウッドでノウハウを積み重ねた企業再生の草分け的存在だ。
そのTOB価格が安過ぎるとして株の買い占めに走ったのが、「物言う株主」として名高い村上世彰のファンドだった。
次に争奪戦に参戦したのが、件の中国人実業家の羅である。さらに豊富な資金をもとに各種M&Aを仕掛ける麻生グループを率いる麻生巌が買い占めに入った。巌は麻生太郎自民党副総裁の甥として知られる。
杉本、村上、羅、麻生という企業買収や企業再生のプロが勢揃いした格好である。
もちろん彼らの狙いは廣済堂傘下の東京博善だった。前述した通り、都内23区の火葬事業の7割超を独占し、売上高こそ90億円に届かない規模ながら、営業利益は40億円前後を叩き出す高収益企業だったからだ。
