スポーツ

巨人ドラ1選手が他球団マスコットの「中の人」になった経緯

 巨人にドラフト1位で入団しながら、その後変わった形で野球界に携わった選手がいる。1968年に巨人に入団した島野修氏について、スポーツライターの永谷脩氏が綴る。

 * * *
 2005年のドラフト1位、巨人・辻内崇伸(大阪桐蔭)が、一度も一軍で登板することのないまま、8年間のプロ人生に幕を閉じた。甲子園で156kmをマークして鳴り物入りで入団。キャンプの初ブルペンでは、当時の原辰徳監督と尾花高夫コーチが見守る“御前登板”で、合格点を与えられたほどの逸材だったが、故障に泣かされた。

 この報せを受けて思いだしたのは、「黄金のドラフト」といわれた1968年の巨人のドラ1選手だ。山本浩二(広島)や星野仙一(中日)、田淵幸一(阪神)や山田久志(阪急)といった錚々たるメンバーが連なる中、巨人は、高校生を1位指名した。武相の島野修である。神奈川県代表として2年連続甲子園に出場。県予選ではノーヒットノーラン、18奪三振を記録した右腕だ。

 地元球団・大洋の私設応援団長だった池杉昭次郎は、息子が武相に通っていたこともあり、「すごい高校生がウチに来る」と楽しみにしていた。だが結局は巨人が指名。当時巨人は田淵を狙っていたが阪神に奪われ、島野を大洋に持って行かれるならばと指名したのだった。球界では驚きの指名で、巨人入りを希望していた星野が「島と星の間違いじゃないか」と言ったというエピソードは語り草である。

「ドラフト1位ということで周囲からいつも見られているプレッシャーがあった。1年目に1勝を上げると、もっと良くなるとフォーム改造を指示され、それが原因で肩を故障した」(島野)

 そのまま鳴かず飛ばずで、24試合で1勝4敗。1976年に阪急に移籍する。阪急では、同期の山田が既に90勝を上げ、大エースに成長していた。阪急でも結果を残せず1978年に引退を決意する。

 山田には同期のよしみでよく食事に連れて行ってもらっていた。引退後、芦屋でスナックを開業した時も、仲間は店に来てくれた。だが島野は、今ひとつ肩身が狭かったという。「俺は球場では何も残せていない」という後ろめたさがあった。

 そんな時、阪急がマスコット「ブレービー」の役者を募集していることを知った。表に立てずに終わった自分が裏に回ろうと心に決めて、すぐに応募した。私はある時、酔った勢いで、「店も順調なのにどうしてぬいぐるみに入ることにしたのですか」と聞いたことがある。

「同期のドラフト1位はすごい連中ばかり。それができなかった自分はこれで生きるしかないんだ。わからないだろうけどね」

 ポツリと答えた島野に、悪いことを聞いたかなと思った。

 夏の試合、ぬいぐるみの中は40度を軽く超える。汗と泥にまみれ、一生懸命パフォーマンスをしていたが、西宮球場には閑古鳥が鳴いていた。だがマスコットの人気はあり、夏休みに観戦に来ていた親子連れが、「パパ、明日もブレービーを見に連れて行って」と言ってくれたことが何よりも嬉しかった。

「ファンレターも来ているんだ。人気1位のプレッシャーというのは大変なんだぞ」

 酔うとそうして、自嘲気味に話すのが常であった。

 阪急が身売りをしてオリックスになり、マスコットが「ネッピー」に変わってからも職を続けた。マスコットが天職と言った島野。イチロー人気で、グリーンスタジアム神戸が満員になったのを見て「少し恩返しできたネ」と言った言葉を思い出す。島野は2010年に脳出血で世を去った。存命だったら、巨人OBの1人として、今、辻内にどんな言葉をかけるだろうか。今年もまたドラフトの日がやってくる。

※週刊ポスト2013年10月25日号

関連記事

トピックス

大谷翔平選手(時事通信フォト)と妻・真美子さん(富士通レッドウェーブ公式ブログより)
《水原一平ショック》大谷翔平は「真美子なら安心してボケられる」妻の同級生が明かした「女神様キャラ」な一面
NEWSポストセブン
裏金問題を受けて辞職した宮澤博行・衆院議員
【パパ活辞職】宮澤博行議員、夜の繁華街でキャバクラ嬢に破顔 今井絵理子議員が食べた後の骨をむさぼり食う芸も
NEWSポストセブン
海外向けビジネスでは契約書とにらめっこの日々だという
フジ元アナ・秋元優里氏、竹林騒動から6年を経て再婚 現在はビジネス推進局で海外担当、お相手は総合商社の幹部クラス
女性セブン
岸信夫元防衛相の長男・信千世氏(写真/共同通信社)
《世襲候補の“裏金相続”問題》岸信夫元防衛相の長男・信千世氏、二階俊博元幹事長の後継者 次期総選挙にも大きな影響
週刊ポスト
女優業のほか、YouTuberとしての活動にも精を出す川口春奈
女優業快調の川口春奈はYouTubeも大人気 「一人ラーメン」に続いて「サウナ動画」もヒット
週刊ポスト
二宮和也が『光る君へ』で大河ドラマ初出演へ
《独立後相次ぐオファー》二宮和也が『光る君へ』で大河ドラマ初出演へ 「終盤に出てくる重要な役」か
女性セブン
真剣交際していることがわかった斉藤ちはると姫野和樹(各写真は本人のインスタグラムより)
《匂わせインスタ連続投稿》テレ朝・斎藤ちはるアナ、“姫野和樹となら世間に知られてもいい”の真剣愛「彼のレクサス運転」「お揃いヴィトンのブレスレット」
NEWSポストセブン
デビュー50年の太田裕美、乳がん治療終了から5年目の試練 呂律が回らず歌うことが困難に、コンサート出演は見合わせて休養に専念
デビュー50年の太田裕美、乳がん治療終了から5年目の試練 呂律が回らず歌うことが困難に、コンサート出演は見合わせて休養に専念
女性セブン
交際中のテレ朝斎藤アナとラグビー日本代表姫野選手
《名古屋お泊りデート写真》テレ朝・斎藤ちはるアナが乗り込んだラグビー姫野和樹の愛車助手席「無防備なジャージ姿のお忍び愛」
NEWSポストセブン
破局した大倉忠義と広瀬アリス
《スクープ》広瀬アリスと大倉忠義が破局!2年交際も「仕事が順調すぎて」すれ違い、アリスはすでに引っ越し
女性セブン
大谷の妻・真美子さん(写真:西村尚己/アフロスポーツ)と水原一平容疑者(時事通信)
《水原一平ショックの影響》大谷翔平 真美子さんのポニーテール観戦で見えた「私も一緒に戦うという覚悟」と夫婦の結束
NEWSポストセブン
大谷翔平と妻の真美子さん(時事通信フォト、ドジャースのインスタグラムより)
《真美子さんの献身》大谷翔平が進めていた「水原離れ」 描いていた“新生活”と変化したファッションセンス
NEWSポストセブン