名門企業・シャープが外資の巨大な力に翻弄されている。2月25日、シャープは台湾の鴻海(ホンハイ)精密工業の傘下に入って経営再建を図ることを決めた。その前日、約3000億円超にのぼる「偶発債務(将来的に債務になる可能性のある潜在リスク)リスト」を鴻海側に伝達した。
これに激怒したのが鴻海グループの総帥である郭台銘・会長だ。「契約直前での開示は信義破りだ」と、2月末が期限だった交渉の延長をシャープ側に通告。日本の大手電機メーカーが初めて外資の軍門にくだる「世紀の買収劇」は、土壇場で大荒れの様相を見せている。
鴻海の創業は1974年。当初は白黒テレビの部品生産を手掛け、1990年代末から電子機器などの組み立てを請け負う事業に参入。以降、急成長を遂げ、グループ売上高14兆8000億円(2015年12月期)、従業員数約100万人(連結推計値)の「帝国」を一代で築き上げた郭氏は「現代のチンギス・ハーン」と呼ばれる。
1日16時間働くことで知られ、軍隊式のトップダウンの経営手法が代名詞だ。今回の買収交渉を取材し続けてきたジャーナリストが語る。
「郭氏は“超ワンマン”です。契約条件にある経営陣留任、従業員の雇用維持は、リップサービスにすぎません。現経営陣が居座れるのも今年6月の株主総会まででしょう。出資後66%の株式を取得するのと引き換えに、シャープの取締役13人のうち9人が鴻海側から送り込まれることになっています。以降は鴻海主導で何事も決まっていくわけで、大規模なリストラもあり得る。40歳以上は言うに及ばず、40歳以下の社員も安泰ではない」
そもそも鴻海の買収目的がシャープの救済でないことは明らかだというのは、シャープ問題に詳しいジャーナリストの北沢栄氏だ。
「鴻海が手に入れたいのはシャープの液晶技術力です。中でも従来製品より消費電力が少なく、折り曲げることもできる有機ELディスプレイは、これからのタブレットやスマートフォンに標準搭載されていくことが確実視されています。
現に鴻海が受託製造を受けているアップルは2018年に予定していたiPhoneへの有機ELディスプレイの搭載予定を2017年の秋に早める動きを見せている。アップルから同生産を一手に請け負うためにはシャープの技術力が不可欠なのです」