だが、考えてみれば今世紀に入ってからの月9のヒットは「美男美女の恋物語」よりも「変わり者のお仕事物語」の方が多いのである。平均視聴率34.3%を記録した木村拓哉の『HERO』も異色の検事が主人公だし、上野樹里の『のだめカンタービレ』も恐るべき変わり者音大生の物語、福山雅治の『ガリレオ』も科学が第一の天才学者が事件解決。大野智の『鍵のかかった部屋』に至っては密室の謎を解いていた本人が最後の最後に不気味な微笑みを遺して去ってしまった。
そして30周年の記念作として今春スタートするのが『貴族探偵』。主演は相葉雅紀である。素性は不明だが、優雅な貴族的生活を送る青年(相葉)が、自分ではまったく推理せず、執事(松重豊)、メイド(中山美穂)、運転手(滝藤賢一)たちに命じて事件を考えさせるという物語。どんな探偵なんだよ、と思えるが、「変わり者」「ミステリー」に加え、トップアイドル主演でしっかり原作がある。暗くならないヌケのよさもある。月9ヒット作の要素をすべて備えた盤石態勢。これでヒットしなきゃ大変である。
また、別の見方では、『貴族探偵』が、新たなドラマファンを取り込めるかが注目される。冒頭に『突然ですが、明日結婚します』の視聴率を書いたが、このドラマは見逃し配信視聴では好評だった。月9はネット配信世代には届いているのである。
一方で、ここ数年、各局のサスペンスドラマは、枠の移動や縮小が続く。月9と同時間帯のTBSの月曜日の2時間ドラマ枠は8時スタートになっているし、今春、40年来親しまれたテレビ朝日の『土曜ワイド劇場』も終了。本来の月9のお客さん層に加え、色恋よりミステリーを渇望する2時間ドラマ視聴者(ネット配信世代じゃないでしょう)を確実につかまえれば、『貴族探偵』のヒットは間違いない。月9の未来を占う意味でも『貴族探偵』がどんな時代の風を受けるか。貴族探偵本人はまったく推理しないと思うが、見届けたい。