文科官僚による「裏口入学」賄賂事件を見ても、いまや霞が関の底は完全に抜けた。国益を一手に背負う外務省までもが、その混乱の波に呑まれている。米朝の急接近によって日本の対北朝鮮外交が岐路を迎えているが、この重大局面で外務省の動きがほとんど見えてこない。実はこの間、対北外交をめぐり、さまざまな思惑が入り組んだ官邸vs外務省の“刺し合い”が起きていた。ノンフィクション作家・森功氏がレポートする。(文中敬称略)
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◆河野太郎の怒声
河野太郎が外務大臣になる少し前、昨年春先の出来事である。
「あんた方はやる気がないのか、馬鹿なのか、それともわざと嘘をついたのか、その3つのうちのどれなんだっ!」
自民党の政務調査会に、河野の怒声が鳴り響いた。モリカケ問題が紛糾し始めた通常国会を尻目に、自民党は6月18日の会期末までに共謀罪法案の成立を目指していた。当時の河野は閣外だったが、党政調の法務部会に法務省と外務省の担当部局を呼びつけ、とりわけ外務省に怒りをぶちまけた。
共謀罪法の成立が安倍政権をはじめ自民党の大きな悲願なのは、言うまでもない。父親(河野洋平)にハト派のイメージがあるので意外かもしれないが、党内で法案を進めようとしてきた急先鋒が河野太郎である。戦中の治安維持法の暗い影が付きまとう法案には、国民のアレルギーがあり、なかなか実現できなかった。第2次安倍政権でそんな法の成立にこぎ着けた。河野はその立役者の一人だ。