国内

現場の捜査経験乏しい 特捜部=「最強の捜査機関」はウソ

「最強の捜査機関」といわれてきた地検特別捜査部。政界、財界、官界と、“聖域”を摘発することにレゾンデートルを示してきた。しかし、皮肉なことに、権力の闇に切り込む側だった「特捜部」が、深い闇を残す“最後の聖域”として残ってしまった。20年以上にわたって検察捜査を取材してきたジャーナリストの伊藤博敏氏が実態を明かす。

****************************
 東京、大阪、名古屋の各地検に置かれた特捜部が、「最強の捜査機関」だというのは幻想である。検事、判事、弁護士(主に検事OBのヤメ検)の法曹三者と、司法マスコミで築き上げた特捜部主導の司法秩序が、特捜部創設63年を経て、制度疲労で崩壊寸前の状態だ。

 一人一人の検察官は、任官の時から「公訴権」と「捜査権」を与えられている。だが、通常の検事の仕事は、警察などから上がってきた事案に対し、起訴するか否かを決めるといった事件処理が中心。現場の捜査経験はほとんどない。そんな検事が特捜部に抜擢されてくる。

 実際に捜査のほとんどを行なうのは、全国の警察、国税、証券取引等監視委員会、公正取引委員会などの捜査監督官庁。それに外部のヤメ検や、検察を担当する司法マスコミを加え、彼らから持ち込まれた「筋のいい事件」を選択、見込み捜査で走る。

 見込み捜査とは、「シナリオ捜査」である。もたらされた情報に若干の補充捜査を加えて、事件を組み立てる。これを「筋を読む」というが、その筋に沿って、供述調書が作成される。

 捜査経験がないから供述調書に頼り、それしかないから取り調べがエキセントリックになる。被疑者を自供させなければ事件は成立しない。検事は必死だ。かつては、殴る蹴るを厭わなかったし、今でも肉体的、精神的に苦痛を与えて証言を引き出そうとする。

 そんな捜査機関が「最強」といわれたのは、“司法秩序を共に担っている”という意識を持つ裁判所が99.9%の有罪判決を出し、司法マスコミが捜査を称え、容疑者を徹底的に貶めたからである。

「今太閤」の田中角栄、新興ベンチャーの“走り”だったリクルート、政界のドンの金丸信、官庁の雄だった旧大蔵省、安保の要の防衛省、日本的経営風土のゼネコン談合、経済秩序の“破壊者”だった堀江貴文と村上世彰……。

 これらを絶大なる権力で打ち破ってきたのは検察だが、皮肉にも自らがタブーとなって、制度疲労を起こし、弱体化していった。

 郵便不正事件をめぐる前田恒彦・大阪地検特捜部元主任検事の稚拙な証拠改竄は、この組織が腐っていることの証明であり、むしろ国民目線でいえば「最後のタブー」を追い込む、いいきっかけである。

※週刊ポスト2010年10月29日号

関連記事

トピックス

大谷と真美子さんを支える「絶対的味方」の存在とは
《ハワイ別荘・泥沼訴訟を深堀り》大谷翔平が真美子さんと娘をめぐって“許せなかった一線”…原告の日本人女性は「(大谷サイドが)不法に妨害した」と主張
NEWSポストセブン
世界的な人気を誇るシンガー・d4vd(20)(Instagramより)
「行方不明の10代少女のバラバラ遺体が袋詰めに」世界的人気歌手・d4vdが所有する高級車のトランクに遺棄《お揃いのタトゥー「 Shhh…」で発覚した2人の共通点》
NEWSポストセブン
須藤被告(左)と野崎さん(右)
《紀州のドン・ファンの遺言書》元妻が「約6億5000万円ゲット」の可能性…「ゴム手袋をつけて初夜」法廷で主張されていた野崎さんとの“異様な関係性”
NEWSポストセブン
神田正輝の卒業までに中丸の復帰は間に合うのか(右・Instagramより)
《神田正輝の番組卒業から1年》中丸雄一、『旅サラダ』降板発表前に見せた“不義理”に現場スタッフがおぼえた違和感
NEWSポストセブン
イギリス出身のボニー・ブルー(本人のインスタグラムより)
「タダで行為できます」騒動の金髪美女インフルエンサー(26)の“過激バスツアー”に批判殺到 大学フェミニスト協会は「企画に参加し、支持する全員に反対」
NEWSポストセブン
ラーメン店の厨房は暑い(イメージ)
《「汗を落とすな」「清潔感がない」》猛暑で増えた「汗クレーム」 熱湯で麺を茹で上げるラーメン店やエアコンが使えないエアコン取り付け工事にも
NEWSポストセブン
主人公・のぶ(今井美桜)の幼馴染・小川うさ子役を演じた志田彩良(写真提供/NHK)
【『あんぱん』秘話インタビュー】のぶの親友うさ子を演じた志田彩良が明かすヒロインオーディション「落ちた悔しさから泣いたのは初めて」
週刊ポスト
寮内の暴力事案は裁判沙汰に
《いまだ続く広陵野球部の暴力問題》加害生徒が被害生徒の保護者を名誉毀損で訴えた背景 同校は「対岸の火事」のような反応
週刊ポスト
どんな役柄でも見事に演じきることで定評がある芳根京子(2020年、映画『記憶屋』のイベント)
《ヘソ出し白Tで颯爽と》女優・芳根京子、乃木坂46のライブをお忍び鑑賞 ファンを虜にした「ライブ中の一幕」
NEWSポストセブン
俳優の松田翔太、妻でモデルの秋元梢(右/時事通信フォト)
《松田龍平、翔太兄弟夫婦がタイでバカンス目撃撮》秋元梢が甥っ子を優しく見守り…ファミリーが交流した「初のフォーショット」
NEWSポストセブン
佳子さまを撮影した動画がXで話題になっている(時事通信フォト)
《即完売》佳子さま、着用した2750円イヤリングのメーカーが当日の「トータルコーディネート」に感激
NEWSポストセブン
国連大学50周年記念式典に出席された天皇皇后両陛下(2025年9月18日、撮影/JMPA)
《国連大学50周年記念式典》皇后雅子さまが見せられたマスタードイエローの“サステナブルファッション” 沖縄ご訪問や園遊会でお召しの一着をお選びに 
NEWSポストセブン