ライフ

小説が電子書籍化されたらホリエモン的な小説の解釈が必要か

【書評】『ユリイカ』8月号 特集 電子書籍を読む!(青土社/1300円)

 続々となされる書籍の電子化。まんが原作者の大塚英志氏は、小説のWEB化で重要なのは即効性のある「書き方」だと説く。

******************************
 電子書籍をめぐるこの『ユリイカ』八月号の特集の中で唯一ぼくが興味深かったのは、堀江貴文の「どうでもいい風景描写とか心理描写」をとっぱらい、かつ「要点を入れ」てある小説という身も蓋もない彼自身の小説の定義だ。ずいぶん昔、ぼくがまだ文芸評論めいたことを書いていた頃、小説そのものの「情報」化みたいなことをちらりと書いた記憶があるが、相当数の読者は今や書物に即効性のある情報か、さもなくば「泣ける」「怖い」「癒し」「劣情」といった単一の感情をサプリメントの如く刺激する機能しか求めていない。

 電子書籍という新しい環境に「適応」していくのはそのような「何か」であり、重要なのはそれが正しいか否かではなく全く別途の「書き方」がそこで必要とされている、ということだ。堀江はその自覚さえなく近代小説の書式を秒殺したわけだが、そう考えるとホリエモンの方がその辺の「活字バカ」より正しい気がしてくる。

 そしてぼくにはまんがも同じ問題に直面すると考える。「雑誌メディアの見開きという単位にモンタージュを適応させる」という特殊な環境下で成立した現在のまんがの書式は当然変化の要求にさらされる。そして、より大きな問題は視覚的要素が圧倒的に大きく、セリフは簡易な翻訳ソフトで翻訳が対応可能なまんがは表現文法上の「国際標準化」という波に直面する、ということだ。

 その時に顕わになるのはこの国のまんが表現の「ガラパゴス化」である。WEBで世界同時にまんが表現が消費可能になった今、右から左に進行し、着彩されず、特化したコマの構成論からなり、私小説的内面性を作中人物に与えたこの国のまんが表現は、ある部分を捨てたり変化させる必要がでてくるはずだ。ぼく個人はガラパゴス化した手塚的形式に殉じることにやぶさかではないが、しかし、妙に「日本文化」化したまんがへの愛国意識からWEB化・国際標準化という二重の変化の要請をスルーした時、この国のまんがは紙とともに死ぬ運命を選択することになる。死ねば。

※週刊ポスト2010年11月19日号

関連キーワード

関連記事

トピックス

若手俳優として活躍していた清水尋也(時事通信フォト)
「もしあのまま制作していたら…」俳優・清水尋也が出演していた「Honda高級車CM」が逮捕前にお蔵入り…企業が明かした“制作中止の理由”《大麻所持で執行猶予付き有罪判決》
NEWSポストセブン
「正しい保守のあり方」「政権の右傾化への憂慮」などについて語った前外相。岩屋毅氏
「高市首相は中国の誤解を解くために説明すべき」「右傾化すれば政権を問わずアラートを出す」前外相・岩屋毅氏がピシャリ《“存立危機事態”発言を中学生記者が直撃》
NEWSポストセブン
3児の母となった加藤あい(43)
3児の母となった加藤あいが語る「母親として強くなってきた」 楽観的に子育てを楽しむ姿勢と「好奇心を大切にしてほしい」の思い
NEWSポストセブン
「戦後80年 戦争と子どもたち」を鑑賞された秋篠宮ご夫妻と佳子さま、悠仁さま(2025年12月26日、時事通信フォト)
《天皇ご一家との違いも》秋篠宮ご一家のモノトーンコーデ ストライプ柄ネクタイ&シルバー系アクセ、佳子さまは黒バッグで引き締め
NEWSポストセブン
過去にも”ストーカー殺人未遂”で逮捕されていた谷本将志容疑者(35)。判決文にはその衝撃の犯行内容が記されていた(共同通信)
神戸ストーカー刺殺“金髪メッシュ男” 谷本将志被告が起訴、「娘がいない日常に慣れることはありません」被害者の両親が明かした“癒えぬ悲しみ”
NEWSポストセブン
ハリウッド進出を果たした水野美紀(時事通信フォト)
《バッキバキに仕上がった肉体》女優・水野美紀(51)が血生臭く殴り合う「母親ファイター」熱演し悲願のハリウッドデビュー、娘を同伴し現場で見せた“母の顔” 
NEWSポストセブン
指定暴力団六代目山口組の司忍組長(時事通信フォト)
《六代目山口組の抗争相手が沈黙を破る》神戸山口組、絆會、池田組が2026年も「強硬姿勢」 警察も警戒再強化へ
NEWSポストセブン
木瀬親方
木瀬親方が弟子の暴力問題の「2階級降格」で理事選への出馬が絶望的に 出羽海一門は候補者調整遅れていたが、元大関・栃東の玉ノ井親方が理事の有力候補に
NEWSポストセブン
和歌山県警(左、時事通信)幹部がソープランド「エンペラー」(右)を無料タカりか
《和歌山県警元幹部がソープ無料タカり》「身長155、バスト85以下の細身さんは余ってませんか?」摘発ちらつかせ執拗にLINE…摘発された経営者が怒りの告発「『いつでもあげられるからね』と脅された」
NEWSポストセブン
結婚を発表した趣里と母親の伊藤蘭
《趣里と三山凌輝の子供にも言及》「アカチャンホンポに行きました…」伊藤蘭がディナーショーで明かした母娘の現在「私たち夫婦もよりしっかり」
NEWSポストセブン
高石あかりを撮り下ろし&インタビュー
『ばけばけ』ヒロイン・高石あかり・撮り下ろし&インタビュー 「2人がどう結ばれ、『うらめしい。けど、すばらしい日々』を歩いていくのか。最後まで見守っていただけたら嬉しいです!」
週刊ポスト
2021年に裁判資料として公開されたアンドルー王子、ヴァージニア・ジュフリー氏の写真(時事通信フォト)
《恐怖のマッサージルームと隠しカメラ》10代少女らが性的虐待にあった“悪魔の館”、寝室の天井に設置されていた小さなカメラ【エプスタイン事件】
NEWSポストセブン